ドン ドン ドン ドン 崩れ落ちる氷塊… 日番谷は倒れて。 ガシャ… ン… 氷輪丸は徐々に、その力を失って行く。 「…良い眺めだな。」 藍染の声が、静かに響いた。 「季節じゃあないが、この次期に見る氷も悪くない。」 血塗れで倒れている日番谷の脇を通り過ぎて、藍染が続けた。 「さて、行こうか、ギン ――― 」 チリーン ある筈のない物音。 藍染が振り返った。 「やぁ… 君かい。」 が一人、その場に佇んでいる。 吐く息は白く… 何故だろう。 砕け落ちる氷塊のように、心が音を立てて砕けて行くような気分だ。 「…ひ、な… も、り…」 目の前の事態を飲み込めていないのだろう。 いや、それを理解できるはずもない。 一体、誰が予想出来ただろう。 死んだはずの藍染が生きていて… 雛森と、日番谷の二人を斬ったなんて。 「…ひ… つが、や…」 の声は震えていた。 ドクン ――― 『…無茶するなよ。』 『お前に心配されるほど、落ちぶれてねーよ。』 何故、こんな時に思い出すのだろう。 ゆっくり、振り返る。 「市丸………」 黒曜石の瞳は戸惑いを隠せず、かつてないほど冷たい。 「………藍…染………」 ドクン ――― 『ううん。 あたしは藍染隊長の事、凄く尊敬してるから。』 少し照れたように、雛森ははにかんだ。 『藍染隊長の下で働けて、すごく幸せだよ。』 ドクン ――― 『…隊長クラスになると、食えねえ奴ばっかりだけど、藍染の奴は信用出来る。』 ドクン ――― 何かが激しく脈打っている。 少女の心臓か、それとも… ただ… それは、少女の怒りに反応していた。 『僕はそんな人間じゃないよ。』 自分の黒曜石の瞳に映る藍染は、いつもと変わらない笑顔を浮かべているのに… チリッ 空気が震えた。 「藍染………!!」 『君。』 『何だ、藍染?』 『抱き締めてもいいかい?』 『はぁあ!?』 精神的にも弱っている時に、一度抱き締められた事があった。 『君には何もせずに…大人しくしていて欲しい………』 優しい声で、そう言ってくれた。 てっきり、自身の身を案じての事だとばかり思っていたのに。 あれはこう言う意味だったのか。 漂っていた血の匂いも、藍染の前で腰の斬魄刀が震えるのも… 藍染の身に起きる危険を告げている物とばかり思っていた。 すべてを仕組んでいたのが藍染だったなんて、一体誰が想像出来ただろう。 「藍染………!!!!!」 今は、怒りしかない。 此度のルキアの処刑騒動で、一体どれだけの血が流れたのだろう。 どれほど、皆が心を痛めただろう。 許せなかった。 ザ ――― 腰の斬魄刀に手をかけて、深く構えた。 同時に。 バキィッ それに巻き付けられていた鎖が砕け散った。 風が巻き起こる。 急激に膨れ上がるその霊圧に耐え切れなかったのだろう。 日番谷がくれた髪飾りが弾け飛んだ。 ザワ… ――― 藍染と市丸も、それぞれに構える。 少しでも気を抜けば、魂すら絡めとられそうな程、その霊圧は巨大だった。 一触即発の空気。 チリーン 沈黙を破ったのは… 静かな物音。 「… ――― !」 その涼しい音色に、一瞬、の呼吸が止まった。 『俺が… 護るから…』 チリーン チリン… 『絶対に護ってやるから…』 床で跳ねた鈴の音だった。 『だから、心配すんな…』 何故だろう。 日番谷の声が聞こえた気がした。 トクン ――― 自身が驚くほどに、一瞬で冷静になれた。 斬魄刀の柄から手を放す。 この斬魄刀を抜けば… 二度と、戻れない。 「日、日番谷…!」 藍染に斬魄刀を向けるのもいいだろう。 だが、日番谷と雛森を救うのが先だ。 駆け出そうとした瞬間。 ! 包まれるようにその肩を抱かれた。 何か反応するより先に。 ドッ 藍染の刀が、背から少女を一突きにした。 小さな体は鮮やかな紅を撒き散らしながら、ゆっくりと藍染の腕の中に倒れた。 |