「ん?」
恋次が首を傾げた。
「見ろよ、先輩。 あの格好…」
恋次の声に、檜佐木が視線を投げる。
「お。 どこの大貴族のお嬢さんだ……… って、じゃねえか!?」
檜佐木の声に、が首を傾げる。
「檜佐木と、阿散井か… 今日はよく人に会うな…」
恋次が眉を寄せた。
「何やってんだよ、こんな所で? 朽木隊長は一緒じゃねえのか?」
この声に、今度はが眉を寄せる。
どうして恋次が、白哉と出かける予定だった事を知っているのだろう。
「どう言う事だ? 白哉が… お前に何か言ったのか、阿散井?」
恋次が首を振る。
「いや、あの人は何も言われえよ。 ただ、昨日少し機嫌が良さそうだったから… わざわざ非番も取ってたし。」
失言だったかと、首を竦めながら恋次が続ける。
「だから、お前と出かけるんじゃねえかって、思っただけだ。」
が少し疲れたように息を吐いた。
「全く、白哉のヤツにも困ったものだ。 今朝方、いきなりこれ(着物)が届けられたのだが、訳がわからぬ。 …この格好のせいで、私がどんな目にあったと…」
「は〜… 大変なんだな、お前も。」
大方、市丸辺りに連れ去られたのだろうと予想して、恋次が呟いた。
「いや、でも… いいと思うぜ。」
「んー…?」
突然の檜佐木の声に、が首を傾げる。
「あ、いや… その格好がな。 似合うじゃねーか。 /// 」
少し照れたような檜佐木の声に、はぽりぽりと頭を掻いた。
「…すまぬが先を急いでいる。 失礼するぞ。」
「おい、…」
踵を返して歩き出そうとしたの腕を、恋次が取った。
「お前、顔色悪くねえか? 少し休んで行ったらどうだ?」
「心配してくれるのはありがたいが… だから、急いでいるのだ。 二人も仕事に戻れ。」
恋次の手を優しく振り解いて、が微笑んだ。
「………オイ。」
日番谷が顔をひくつかせた。
「てめえら、そいつが誰か知ってて声をかけたのか?」
突然の声に、薄紅梅の着物を纏った少女を取り囲んでいた男達が飛び上がった。
「ひひひひひ… 日番谷隊長!」
「日番谷!」
が目をぱちくりさせた。
「助かったぞ。 こやつ等実にしつこい。 不愉快だ。」
ナンパされていたのだろう。
先を急いでいたは不機嫌である。
「申し訳ございませんっ! 日番谷隊長のお知り合いとは知らず、無礼を…」
男達は掌を返したように下手に出た。
「俺の知り合いっつーか…」
日番谷が息を吐く。
「コイツは。 零番隊の隊長で… 六番隊の朽木の婚約者だ。 てめえら殺されるぞ。」
白哉の婚約者と言う言葉を聞いて、男達が震え上がった。
「失礼しました〜!!」
と、一目散に逃げて行く。
「…ったく。 仕事中にナンパなんかしてんじゃねーよ。」
苦々しく毒吐いて、日番谷がを見据えた。
薄紅梅のきらびやかな着物に、纏め上げられた漆黒の髪。
元より顔立ちは良い少女だ。
今日のは、嫌でも人目を引く。
「…馬子にも衣装だな。」
日番谷が意地悪そうに笑った。
「私ではない。 白哉の趣味だ。」
がわずかに眉を寄せた。
「嘘だよ。 似合ってるじゃねーか。」
日番谷が続ける。
「どーした? 随分めかし込んで… 危ねーだろ。」
「知らぬ。 今朝方白哉から届いたのだ。 まったく… この格好のせいで私がどんな目に合ったと…」
市丸に攫われ、急ぎ戻る途中に下駄の鼻緒が切れ、そして今ナンパされ…
「…なるほど。 で、気分でも悪いのか?」
「いや、別に…」
何か言いかけたの声を遮る。
「送ってやるよ。 どこまで行くんだ?」
「大丈夫だ。 それに、お前は仕事の途中だろう。」
日番谷の声に、が困ったように眉を寄せる。
「バカ野郎。 仕事よりも、お前が心配なんだよ。 …真っ青な顔しやがって… 強がってんじゃねーよ。」
日番谷が手を差し伸べる。
「ほら。 行くぞ…」
「その必要はない。」
突然の第三者の声。
が驚いて振り返った。
「白哉。」
白哉は溜息を吐いた。
「…捜したぞ、。 待っていろと伝えた筈だが…」
「お前が悪い! 私がどんな目に合ったと…」
ポン
斬魄刀を手渡された。
「………ありがとう。」
それを受け取って、癪に障るが礼を言う。
「…行くぞ。」
白哉はそうとだけ言って歩き出した。
「あ、コラ! 白哉…!」
なんて自分勝手な奴なんだと怒鳴りたいが、白哉が自分を捜してくれていたのは事実。
はぽりぽりと頭を掻いた。
「またな、日番谷。 ありがとう。」
白哉を追うを見て、日番谷が小さく息を吐く。
「…俺がの隣を歩くのが気に入らねえって訳か。 …上等だ、朽木の野郎…」
白哉に着いて歩いてしばらくすると。
「? 墓地…か…?」
が眉を寄せる。
「このような場所に何の用だ?」
「今日が何の日かわからぬか?」
白哉の声に、が益々眉を寄せる。
「…秋彼岸だ。」
白哉が足を止めた。
その墓石には、朽木と刻まれている。
「…お前を、改めて父母に紹介しようと思ったのだ。」
突然の声に、が目をぱちくりさせる。
白哉がわずかに首を傾げた。
「…言わなかったか?」
「聞いていない。」
何故そんな大事な事を言わないのだろう。
(こやつはも〜お…)
癪に障るが怒れないと言う の複雑な心境も知らずに。
白哉は墓前に花と線香を手向けている。
は、大きく息を吐いた。
そっと、歩み出る。
「朽木家当主殿、奥方殿、お久しぶりです。」
今は先代当主と呼ぶべきなのだろうが、そちらの方が呼び慣れている。
「生前、お二人には大変お世話になりました。 私は今、白哉の世話になっています。」
は細く笑った。
「相変わらず白哉は言葉が足りず、私はいつも不安と孤独を感じてます。」
「………」
白哉が何か言いたそうに目を細めたが、は構わず続けた。
「どちらも頑固なのはお二人も知っているでしょう。 口を利けば憎まれ口を叩く事も少なくありません。 でも…心配しないで下さい。 今は…」
(それでも …白哉の隣は、心地良い。)
風が吹いた。
「…"今は"… 何だ?」
白哉が眉を寄せた。
は白哉を見上げて、細く笑う。
「秘密だ。」
小さく舌を出して、踵を返す。
「何故、お前は何も言わぬのに、私だけが言わねばならんのだ。 教えてなどやらぬ。」
まるで子供のようにそう呟いて、は歩き出した。
強がる気持ちとは裏腹に、内心はとてもドキドキしている。
白哉は小さく息を吐いて、じっと墓石を見据えた。
父母に、言わねばならない事はたくさんあるが。
どうしても、一つだけ、伝えたいことがあった。
「父上、母上… あれが………」
風が吹いた。
「…私の、何よりも大切な者です。」
白哉の表情は、とても穏やかだった。
「私は、あの娘を護ります。 どうか、見守っていて下さい。」
柔らかい秋の風に、その髪が揺れる。
己の胸に、誓いは立てた。
今は亡き、父母の霊前に誓いを立てた。
その誓いをの前で立てられる日は、そう遠くないだろう。
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100000 hit ですよ〜!
ありがとうございます!
『BLEACH 連載ヒロインで、逆ハー』 とのリクでした。
秋彼岸にちなんで、白哉さんとお墓参りに。 と言う話にさせて頂きました。
凪様、お誕生日おめでとうございます。
申告ありがとうございました。
次は、1000000 hit 目指してがんばります!
これからもよろしくお願いします。
2005. 9. 23. 亜椎 深雪