「ん…?」
十一番隊へ向かっていた日番谷は首を傾げた。
「? 何だ…?」
十一番隊の道場の方が騒がしい。
昨日、十番隊の者が絡まれて怪我をしたのだ。
文句を言うのはもちろん、治療費や器物破損額だって請求しなくてはならない。
「どーせ、また腕比べでもやってんだろ。 ったく… 血の気の多い奴等だぜ…」
一度溜息を吐いて、日番谷はそちらの方へ足を進めた。
ガラッ
「おーい、邪魔するぞ…」
完全に言い終えるより先に。
ドカッ
日番谷のすぐ隣に、投げ飛ばされたのだろう 男が落ちて来た。
「次!」
道場の真ん中。
木刀を片手に立っているのは、十一番隊・第三席の斑目 一角である。
「………」
日番谷は思い切り眉を寄せた。
「あ? 日番谷… 隊長…?」
突然の来訪者に、一角が目を丸くする。
更木と弓親が視線を投げた。
「どうした、ガキ? ここはガキの遊び場じゃねえぞ。」
更木が意地悪そうに笑った。
「…昨日、うちのヤツがお前の所のヤツに絡まれたんだよ。 これ、請求書。」
わずかに眉を寄せながら、道場の中へ入り。
更木の側の弓親に一枚の紙を差し出す。
「入院費に治療費… あ、器物破損の請求まで来てますよ。 どうします、隊長?」
「ちっ…」
弓親の声に、更木が舌打ちした。
「おい、一角! シメロ。」
「了解っ。」
更木の声に、一角が頷いた。
キラーンと、その頭が光る。
「昨日、十番隊のザコに絡んだ挙句、十一番隊だと名乗ったバカはどいつだ!? 十秒以内に出て来やがれ!」
道場を見回して、声を上げた。
「オイ… ザコって何だよ… この喧嘩バカ集団…」
日番谷の額に、青筋が浮かんだ。
「あ、あの…」
おずおずと一歩、前へ出た男。
「てめーか、荒巻! 減給だ!!」
ドゴッ
有無を言わさず、荒巻と言う男に木刀で殴りかかる。
日番谷が眉を寄せた。
「オイ、斑目… 程々に手を抜いてやらねえと、死ぬぞ、ソイツ?」
「いーんすよ。 闇討ちならバレないようにやれっての。 ね、更木隊長?」
くるっと、更木の方へ振り返る。
「まったくだ。 請求書だってバカになんねえからな。」
呆れたように息を吐く更木。
一角は道場内を見回して、眉を寄せた。
「次! 誰だ?」
ビリビリ震える空気。
日番谷は眉を寄せた。
「オイ、綾瀬川… 腕比べか何かか? 今度は何を賭けてんだ? 金か?」
十一番隊では、喧嘩博打は度々行われている。
だが、席官である一角が参加すれば、賭けになどならないだろう。
気のせいか、ピリピリした空気。
日番谷の声に、弓親が首を振った。
「お金じゃないですよ。 今回は、を賭けてるんです。」
その声に、日番谷は一瞬言葉を失った。
「…は?」
目を丸くして、聞き返す。
「だから、を賭けてるんですよ。 実は…」
弓親が口を利いた。
更木や一角、弓親までもが揃って出払っていた時、十一番隊にが遊びに来たのだ。
いつもは上位席官がその側にいるため、遠巻きのように眺めるだけの十一番隊。
初めて近くでを見て、直に言葉を交わして…
すっかり気分が舞い上がってしまったのだろう。
それぞれがの予定もお構いなしに、デートを申し込んでいる始末。
「そこへ僕と一角が戻って来まして。 一角はを好いているから。 困っていたを放っておけなかったんでしょう。」
『やい、テメエ等! とデートしたいってんなら、俺と勝負しろ!! 俺に勝ったら譲ってやる!!』
「との、次第です。」
「………」
弓親の言葉に、日番谷は呆れたように溜息を吐いた。
「…で? 当のはどこにいるんだよ?」
「副隊長と一緒に、茶菓子を取りに隊舎へ行きましたよ。 そろそろ、戻ると思いますけど。」
「………」
頭が痛い。
同じ護廷十三隊でありながら、何故こうも違うのだろう?
「オイ、更木… 止めさせろよ。」
「放っておけよ。 敵わねえのを承知で挑んでやがる。 面白え見世物じゃねーか。」
更木は笑っているだけで、止めようとする気配もなかった。
「オイ、何だ? ビビってんのか、この腰抜け共!!」
一角の声に、空気がビリビリ震えた。
「とデートしたいんだろ? かかって来いよ!! あぁ!?」
一角の声に弓親が小さく息を吐いた。
「相当頭に来てますね、一角。」
「ああ、面白えじゃねーか。」
細く笑う更木に、日番谷の苛々は募って行く。
真面目に仕事に励んでいる、十番隊の隣で。
十一番隊の連中は何をやっているのだろう。
「オイ、更木…」
「うるせえな。 俺は止めねえって言ってるだろ。」
少し苛々した様子で、更木が日番谷を見据えた。
「がかかってるんだってな?」
「あ?」
日番谷は細く笑った。
「面白えじゃねーか。 俺も参加するぜ。」
十と書かれた羽織を脱いで、道場の中央へ歩み出る。
「…すごい飛び入り参加ですね、隊長。」
弓親がちらっと更木を見上げた。
「ああ。 木刀貸してやれ。」
更木が笑った。
木刀を片手に、日番谷が一角を見据える。
「よぉ、斑目。」
口元だけで細く笑った。
「お前に勝ったら、とデート出来るらしいじゃねーか。」
「…なんすか? まさか、木刀で俺と戦(や)ろうってんじゃ…」
一角が眉を寄せる。
「止めといた方がいいっすよ、日番谷隊長。 木刀は単に力勝負。 その小さい体で俺と戦おうなんて、百年早…」
「うるせぇ。」
日番谷がその声を遮る。
「とデートしたきゃ自分と戦え、だ? 何様のつもりだ? お前はの何だ?」
を物のように扱っている事が頭に来た。
そっと、構える。
一角の瞳が揺れた。
「アンタこそ、の何です? そんな事を言う権利、あるんですか?」
空気が震えた。
「…朽木白哉もだが… アンタとも、ケリ付けないとな…」
ユラァ…
構えた。
「手加減しねえぞ。 行くぜ…!」
踏み込んだ。
ガッ
振り下ろされた木刀を受ける。
「…っ !」
その力強さに、日番谷の手が痺れた。
ガンッ
弾く。
間合いを取り、今度は仕掛けた。
飛び掛る。
ガッ
日番谷の一撃を受けて、一角はそれを弾いた。
「ハッ! 軽いな!!」
体を高く飛ばされ、その反動で、日番谷は身を反転させた。
天井を蹴って、もう一度仕掛け…
チリーン
「!」
耳に聞こえた涼しい音色。
直後。
ガッ ガガッ
二人の間に、誰かが割って入った。
「バカ者! 何をしている!?」
不機嫌そうに眉を寄せたのはだった。
カラン
の手から、二つの木刀が落ちた。
「っつ〜… 痺れた…」
手首をプラプラさせながら、キッと一角を睨み上げる。
「斑目! 幼子相手にムキになるヤツがどこにいる!!」
怒鳴りつけて、次は日番谷に向き合った。
「日番谷! 隊長足る者が他所の隊で問題を起こそうとするな!!」
ぷぅと頬を膨らませ、二人を睨む…
「………」
ぽりぽりと頭を掻いて、日番谷は小さく息を吐いた。
「悪かったな…」
一角が首を振る。
「いや、俺こそ… すんませんでした。」
小さく頭を下げる。
「ん。 そうだ、それでいい。」
その様子を見て、が頷いた。
「………」
日番谷が眉を寄せた。
「ん? どうした、日番谷? のどが渇いたのか?」
と、目をぱちくりさせるの手を。
ぎゅっと、掴む。
「イタッ…!」
が叫んだ。
「バカ者! 痛いではないか!」
目尻に涙を滲ませて、が眉を寄せる。
「バカはお前だ。 男同士の勝負に割って入って… このくらいのケガで済んで良かったと思え。」
自分と一角の木刀を、その細い手で受けたのだ。
ケガの一つもするだろう。
「もう終わりだ。 がケガしちゃ、こんな勝負 意味ねえだろ。」
日番谷の声で、喧嘩博打は終了した。
「来い。 冷やしてやるよ。」
日番谷がの裾を引いた。
「あ、コラ、引っ張るな…!」
日番谷に引かれるまま、は十一番隊の道場を後にした。
「あーあ。 持って行かれちゃったね、つるりん。」
やちるがぷぅと頬を膨らませた。
「いいっすよ、別に。 また明日にでも、遊びに来るだろうから。」
そう言いつつも、一角は少し淋しそうだった。
「お前らしくないな、日番谷。 どうかしたのか?」
が首を傾げた。
「べーつに。 ただ、お前を物みたいに扱ってたから… 少し、腹が立ったんだよ。」
じっと前を見たまま、日番谷は口を利いた。
その優しい声に一瞬目を丸くして、は細く笑った。
「ありがとう、日番谷…」
その顔を覗きこんだ。
「べ、べつに…」
ぷいっとそっぽ向いた日番谷の声を、遮る。
「お前となら… 今度、デートしてもいいぞ。」
日番谷はちゃんと、自身の意思を尊重してくれるから。
日番谷が驚いて振り返ると、は悪戯に笑っていた。
「………考えとく。 /// 」
悪戯に微笑まれて、日番谷の顔が熱を持った。
思えば、一人に振り回されている気がする。
を賭けた、喧嘩博打。
結局、勝者は。
他ならぬだと思う。
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123456 hit ありがとうございます。
キリ番ゲッター様は、南 様でした。
11/30 に申告いただきました。 お待たせ致しました。
『 連載ドリーム [ I wish ... ] のヒロインで、日番谷 vs 一角 』とのリクでした。
最近 WJ 本誌で斑目一角が頑張っていますので、一角オチにしようかと思いましたが。
南様は、日番谷ファンですので、日番谷寄りで落ち着かせました。
連載では弾け跳んだ鈴付きの髪飾り… ここではまだ付いてます、ハイ。
ところで。
南様。 今度、うちの日番谷くんとデートしてくれませんか?
2005. 12. 7. 亜椎 深雪