友達



、帰るよ。」

 ホームルーム終了直後、友人にそう言われ、は慌てて帰り支度を始めた。

「ごめん、ちゃん。 ちょっと待って…」

 あたふたと急ぐに、は溜息を吐いた。

「今日は待ち合わせしてるって言ったでしょ、先帰るよ?」

 慌てていたため、はペンケースを落として中身をぶちまけてしまった。

 涙目で訴えるに、は溜息を吐いた。

「じゃあね、また明日。」

 一言だけそう言うと、は帰ってしまった。

 半泣きでペン類を拾う

「はい。」

 目の前にペンを差し出されたペンを、は受け取った。

「…ありがとう。 えっと、仙道くん?」

 首を傾げるに、仙道は頷いた。

「ん、そう、仙道くん。 何だ、俺の事知ってたんだ?」

 はにかんだ仙道に、が頷いた。

「あの、一回だけちゃんと一緒に、バスケ部の練習見に行ったの。 だから…」

 は徐々に頬を赤く染めて行く。

「…大丈夫?」

 首を傾げた仙道に、ただ首を縦に振って何度も頷いた。

「仙道〜、部活行くぞ〜。」

 仙道のクラスにわずかに遅れてホームルームを終えた越野が、仙道を迎えに来た。

「越野〜、毎日迎えに来なくても、部活くらい一人で行けるって…」

 仙道のぼやきに、越野が即答する。

「ダメだ! 俺が来ないと、時々さぼって釣りに行くだろ!」

 痛い所を付かれて、仙道は反言出来ない。

「っと、誰?」

 の存在に気付いた越野が、首を傾げた。

 越野にじっと見つめられ、は更に赤くなった。

「ほら、越野。 怖がらせちゃダメだろ?」

 仙道が越野に言った。

「転校生の、チャン。 人見知りなんだよね。」

 仙道が同意を求めると、はコクンと小さく頷いた。

「あ、あの…ごめんなさい…

 仙道がにこにこしながら続ける。

「ついでに言うと、ドジなトコがたまに傷かな。」

 細く笑われて、は俯いた。

「そんな風に言うなよ、また赤くなっちゃっただろ。」

 越野が仙道にスポーツバッグを押し付けた。

「ほら、行くぞ! 練習始まっちまう。」

 越野に急かされて、仙道はやれやれと溜息を吐いた。

「あ、そうだ。 チャン。」

 思い出したように、に声をかける。

 は丁度、ペンをペンケースに入れていた。

「次は、落とさないようにね。」

 にっこりと言われて、何も言えない。

「急げば、まださんに追いつけると思うよ。 じゃ、また明日。」

 に手を振って、仙道は越野と共に部活に向かった。

さんって、去年のミス陵南?」

 越野の問いに、仙道は頷いた。

「クラスで、仲がいいんじゃない? ずっと一緒にいるよ。」

 仙道はふぅっと、息を吐いた。

「ま、連れ回されてるって風にも、見えるけどね。」

「あ? 何か言ったか?」

 首を傾げる越野に、仙道は首を振った。

「何でもない。 さ、行こーか。」



「なぁ、って言ったっけ… あの子さ、可愛いよな。」

 数日後、越野がそんな事を言った。

「ん、可愛いよ。 小さいし、ドジで人見知りだから危なくて放って置けないタイプだよね。」

 さらっと一言で言って、仙道は越野を見つめた。

「で、何があったの?」

 越野は少し照れた様子で、話を切り出した。

「もう直、文化祭があるだろ? クラスの実行委員に選ばれちゃったらしくて、一人で遅くまで残って準備とかしてるんだぜ。」

「あれ? 実行委員なんだ?」

 仙道が首を傾げる。

 ホームルームなど、眠っていてまともに参加していないため知らなくて当然。

 越野は呆れながらも続けた。

「昨日帰りに会って、聞いたんだよ。 転校生一人に押し付けるなんて、なんて奴等だって言ったら。」

 は笑顔で言った。

『任されちゃったモノは仕方ないですし、これを機に、皆と仲良く出来るように頑張りたいんです。』

「だってよ。 なんつーか、健気で… その………」

 仙道が楽しそうに笑った。

「惚れちゃった?」

 一気に真っ赤になった越野を見て、仙道は声を上げて笑った。

「いいんじゃない? 結構お似合いかもよ。」

 越野は仙道を見上げた。

「あのさ、俺マジなんだ! その、なんつーか…」

 言葉を濁らせた越野に、仙道が頷いた。

「いいよ、取り持ってあげる。」

 仙道の言葉に、越野は飛び跳ねて喜んだ。

「さんきゅ〜仙道! お礼に、今度さぼっても見逃してやるよ!」

「いや、それよりさ…」

 仙道が言葉を詰まらせた。

 何か言いにくい事らしい。

「何だよ、言ってみろって。 俺に出来る事なら、何でもしてやるからよ。」

 ご機嫌な越野が、仙道に言った。

 仙道は困ったように笑った。

「実はさ、さんなんだけど…」

 越野は驚いたように、首を傾げた。

さん? 何だ、好きなのか?」

 越野の言葉に、仙道は首を振る。

「逆だよ。 少し、苦手なんだ…」

「別にいいじゃねえか。 誰にだって、苦手な奴くらいいるだろ。」

 仙道は困って頭を掻いた。

「そうだけどさ… 最近、どうも言い寄られてるみたいなんだ。」

 越野が驚いて、少し大きな声を上げた。

「え? だって、サッカー部に彼氏がいるだろ?」

 仙道は頷く。

「ん、そうなんだけど… 別れたって言ってたよ。」

『あんな人嫌いよ。 私、今度は仙道君みたいな、優しい人と付き合う事にするわ。』

「とか、言われちゃって。 それ以来、どうも…ね?」

 越野がわからないと首を傾げた。

「いいじゃねえか。 嫌いじゃないなら、付き合っちゃえよ。」

 仙道が首を振る。

「あの手の子ってダメなんだよ。 確かに美人だし、頭もいいし、明るくて話も上手いけど…」

 仙道が一息吐いた。

「女の子達の評判良くないし… 何より、猫被ってそうでさ。」

 越野が頭を掻いた。

「よし、とにかくがんばれ!」

 ぽんと仙道の肩を叩く。

「あれ、どうにかしてくれるんじゃなかった?」

 苦笑う仙道に、越野が首を振った。

「俺も、さん苦手だから。」

「あ、そう。」

 仙道ががっくりと肩を落とした。

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