「ん?」

 三井は足を止めた。

「・・・何だ?」

 足元に生温かい妙なモノを感じて、視線を落とした。

にゃあ。

 小さな首を持ち上げた子猫。

 なかなか機嫌が良いらしく、三井の足に擦り寄っている。

「俺はお前の飼い主じゃないぞ。」

 三井はかがんで、子猫を摘み上げた。

「・・・首輪、してないな。 お前捨てられたのか?」

にゃぁ。

 三井は困った。

 関わってしまった以上連れて帰ってやりたいが、母親は動物嫌い。

 その上、黒猫である。

 見つかった時が怖い。

「わりぃけど、俺は帰るぞ。 お前も新しい家を探せ。」

 頭を撫でてやると、子猫は嬉しそうにノドを鳴らした。

「じゃあな。」

 数歩歩いて、三井は振り返った。

にゃぁ。

 子猫がついて来ている。

「あのな、家に連れて帰れねえんだ。 ついて来んな。」

 困ったように子猫を見やると、まるで遊んでと言わんばかりに尻尾を振っている。

 三井は溜息を吐いた。

「・・・絶対に、鳴くんじゃねえぞ。」

 と、子猫を懐に抱いて歩き出した。



「って、訳なんだけど・・・ 誰かこの猫飼わねえか?」

 部活の休み時間の合間に、三井が言った。

 首根っこを捕まえて、黒猫をぶら下げている。

「猫っすか? 悪いけど、家ハムスターいますんで。」

 宮城が丁寧に断った。

「クラスの友達とかは聞いてみたのか、ミッチー?」

 猫の頭を撫でながら、桜木が問う。

「可愛いじゃない。 名前とかないんですか?」

 彩子が訊ねた。

「・・・俺は、一応チビって呼んでるぜ。って、聞いてねえな。」

 彩子と桜木がチビを取り合っている。

「あたしに抱かせなさい、桜木花道っ!」

「彩子さん、この天才にも触らせて下さいよ!」

 二人の間で、モミクチャになっている子猫。

 哀れに思い、ひょいと流川が取り上げた。

 お腹を撫でてやると、くすぐったそうに鳴く。

「・・・俺が飼う。」

 流川の口から出た意外な言葉に、一瞬耳を疑いながら三井は喜んだ。

「お前がか? マジかよ?」

 チビの頭を撫でながら、流川が言う。

「多分ヘーキだと思うんすけど、今日親に聞いて来ますんで。 明日でもいいっすか?」

 流川の肩に乗って頬に擦り寄る子猫。

 羨ましい・・・ じゃなくて、かなり懐いたようだ。

 何事にも興味のなさそうな流川が猫好きとは意外だったが、ともかく飼い主は見つかった。

「おう、いいぜ。 もう一日くらいは、隠し通して見せるからよ。」

 練習終了後。―――

 チビを連れて上機嫌な様子で、三井は帰路についた。



にゃんっ。

 三井の懐で、チビが一声鳴いた。

「もうすぐ着くぜ。 あと少し、我慢しろよ。」

 丁度、家の近くの公園の前を通った所だった。

 チビが三井の懐から飛び出して、公園内に入ってしまった。

「オイ、チビ! ちょっと待てよ!」

 慌てて追いかけた三井が見たものは、一人の少女と、少女に抱かれて嬉しそうに鳴くチビだった。

 何事かとチビと少女を交互に見つめる三井。

「あ・・・」

 少女が三井に気が付いて首を傾げた。

「・・・三井、くん?」

 三井は少女を見つめて、首を傾げる。

 どこかで、見た覚えのある少女。

「あ・・・っと・・・・・?」

 少女をしげしげと見つめて、三井は手を叩いた。

「ちび!」

 少女ははにかんだ。

「ん、ちびのだよ。」

 中学三年間同じクラスだった、

 高校は別なため、実に三年ぶりの再会だ。

「三井くんってば、久しぶりなのに"ちび"って呼ぶんだね。」

 が首を竦めて笑った。

 中学入学式当日に、三井とぶつかって転んでしまった

『悪い、ちびだから見えなかった!』

 コレがきっかけで、は三年間、三井にちびと呼ばれ続けていた。

「あ、あぁ。 そっちの方が慣れてるからな。」

 照れたように頭を掻いた三井に、が細く笑う。

「あたしの猫、三井くんが預かっててくれたんだ?」

「捨て猫だろ?」

 は少し困った顔をした。

「・・・あのね、引っ越すの。 それで引越し先がこの先のマンションで・・・」

 猫の頭を撫でる。

「飼えないから、捨てて来なさいって言われちゃってさ・・・」

 気持ちいいのか、猫は小さく鳴いた。

「でもね・・・ 気になっちゃって、ずっと探してたんだ。 管理人さんに言ったら、一匹なら買ってもいいって言ってくれたから。」

「そっか・・・。」

 チビは嬉しそうに、に擦り寄っている。

 やっぱり、飼い主と一緒が一番いいみたいだ。

「なぁ、コイツ・・・ 名前何て言うんだ?」

 三井の言葉に少し困ったように俯いて、はゆっくりと答えた。

「・・・・・・・・・ヒサシ。」

 三井は耳を疑った。

 同時に可笑しくて、腹を抱えて笑ってしまう。

 きょとんとしているに、三井は笑いながら言った。

「オ、俺もな・・・ ソイツを、チビって呼んでたんだよ・・・」

 それを聞いて、も笑い出した。

「あたし達、同じ事してたんだね。」

 三井とは顔を見合わせて笑った。

「あのね、三井くん。」

 が先に見えるマンションを指さした。

「家あそこだから。 "ちび"に会いたくなったら、いつでも遊びに来てね。」

 にっこり笑ったに、三井が頷く。

「おう。 ちび達に会いたくなったら、遊びに行くぜ。」

 手を振って可愛いちび達を見送り、三井は自分も家に帰った。



後日談。―――

「流川、悪い!!」

「・・・・・・・・・・・。」

 流川に平謝る三井と、それを無視する流川の姿が、校内で多く見られたとさ。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 2525 で、猫 hit 。
 ものすごく、お待たせいたしました。m(_ _)m
 猫が絡む、甘めのお話し。
 あ、甘いのか? コレは甘いのか?
 流川特別登場と言う事で、コレで許して下さい。
「許さねえよ、どあほう。」
 はっ! 楓ちゃ る、流川!
「・・・俺の猫。」
 自分が猫みたいなくせに何言って・・・ 書き終わっちゃったから仕方ないじゃない。
「・・・てめえ俺に恨みでもあんのか? 贈り物で結構好き勝手書いてるよな?(睨)」
 あ、あはは〜。(汗)
 亜椎、逃げます! ダッシュ! C= C= \(;・_・)/
「待ちやがれ、どあほう。」



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