雨 のち 晴れ



 は空を見上げた。

 分厚い雲に覆われた空はどんよりしていて、今にも雨が降りそうだった。

「…アタシみたいだね。」

 誰もいない教室。

 の声だけが静かに響いていた。

 窓からは、体育館が見える。

「練習してるんだろうな、女の子にきゃーきゃー騒がれながら。」

 一人の無愛想な男を思い浮かべて、溜息を吐いた。

 今や、その名を知らぬ物はいないほど。

 流川楓は有名だった。

「…遠いよなぁ〜。」

 流川とは幼なじみで、小さい頃から一緒に遊んでいた。

 いつからか、流川はバスケばかりに夢中になり、年を重ねるにつれて、距離が出来てしまった。

 以前と同じように話しかけても、流川の反応は薄く。

 きっと、自分といても楽しくないのだろうと思い始めた。

 それなら、せめて邪魔にならないようにと、も流川に触れなくなった。

 目が合えば、挨拶を交わすだけ。

 もっと、近くにいたい。

 子供の頃と同じように、手を繋いで遊びたい。

 でもそんな事を言えば、流川に嫌われるかもしれない。

「はぁ〜、もう…  何でこんなに好きなんだろう…」







 雨が降り出した。

 静かな教室に、雨音だけが大きく響いている。

 小降りになるまでしばらく雨を見つめていたが、は腰を上げた。

「傘、ないや…。」

 空を見上げたまま、歩き出す。

 髪に、肩に、顔に、冷たい雨が降り注ぐ。

 そう言えば。

 子供の頃、こんな風に雨が降っていて…。

 傘を差し出してくれたアイツの、不器用な優しさを感じた事があった。

「…何やってんだ、どあほう。」

 は驚いて振り返った。

「か……… 流川君…。」

 忘れもしない、懐かしい声。

 流川は、何も言わずに、自分の持っている傘を差し出した。

「濡れてるじゃねえか、どあほう。」

「練習は?」

 目を丸くしたまま問う。

「終わった。 で、傘ないのか?」

「ん。」

 の声に小さく溜息で答えて、流川は一言だけ告げる。

「帰るぞ、。」

『帰ろう、。』

 何故、こんな時に思い出すのだろう。

 涙が零れそうになる。

「…流川君の傘に、一緒に入ってもいいの?」

 恐る恐るかけた言葉は、流川に疑問を与えたようだ。

「何が流川君だ、今更。 変な遠慮してると、置いて帰るぞ。」

 首を傾げて言う流川に、は小さく頷いた。

「ん、ごめんね、楓。」

 ぶっきらぼうな言葉、そっけない声。

 でも、それが自分の知っている流川で、そんな流川を好きなんだ。

「楓…」

「ん?」

 は小さく息を吐いて言った。

「あたし、楓の側にいてもいいかな?」

 流川は、相変わらず首を傾げて一言。

「お前がそうしたいなら、そうすればいい。」

「…ん、そうする。」

 雨が止んだ。

 気持ちが少し晴れたせいだろうか。

 空が明るいと思った。



× × × × × × × × × ×



 39000hit リク、螢奈様で流川楓くんをお届けしました。
 本当に、お待たせしてしまって申し訳ありません。(m_ _m)
 切ないけど、ハッピーエンド…。
 何も言わずに、貰って下さい。
 39000hit ありがとうございました。
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