鬼ごっこ



放課後の海南より。―――

「待て、清田〜!」

 校内を慌しく駆け抜ける二人。

 海南高校では、今や名物となっている。

「神さん! お先!」

 清田が擦れ違い様に声をかける。

「はいはい。 程々にしておくんだよ。 がんばってね、ちゃん。」

 笑いながら見届けて、神が言った。

「はい、とっ捕まえます!」

 大した事ではないのだが、清田信長とは同じクラスで。

 いつも何かに突っかけてちょっとした小競り合いになってしまうのだ。

 しかもバスケ部レギュラー清田に対するは、学年で有名な運動音痴。

 この鬼ごっこは、清田所属のバスケ部体育館まで続く。

 体育館まで逃げ切れば清田の勝ち。

 それまで捕まえれば、の勝ち。

「遅えな、! いい加減捕まえてみろよ!」

 階段を駆け下りながら、清田が続ける。

「出来たら何でも言う事聞いてやらあ!」

 そう、今まで一度も捕まえた事なんてない。

 バスケ部レギュラーの座を勝ち取った清田を、運痴のが捕まえられる筈がない。

「うるさいな、ばかぁ〜! 大人しく捕ま…っ!」

 が階段を踏み外した。

 体が宙に浮く。

「なっ!? !!」

 は耳を疑った。

ぼすっ。―――

 大きなスポーツバッグが、階下に叩き付けられた。

 は恐る恐る目を開けた。

「…あ、清田………」

 危うく落ちる所を助けられて、はほっと胸を撫で下ろした。

 同時に、自分を受け止めてしまう清田を男の子だと意識してしまい、少し恥ずかしい。

「お前って…」

 見上げると、清田は顔を反らして続けた。

「…ほんとに、運痴。 死んでも治らねえな。」

 いつもの憎まれ口に、一瞬でもときめいた自分が恨めしくなった。

 何もいえず口をパクパクしていると、清田が偉そうに大口を利く。

「ま、俺に敵うヤツなんていないけどな! かーっかっかっか!」

 はぎゅっと、清田の腕を掴んだ。

「…な?」

 驚く清田に構わず、にっこりと微笑む。

「…捕まえた。」

 清田は一瞬呆気に取られてぽかんとしていたが、しばらくすると反撃を始めた。

「てめっ… きたねえぞ! 誰が助けてやったと………!」

「アンタが、ちょっかい出さなければ、助けられる以前に落ちる事もなかったのよ!」

 一気に捲し上げて、呆気に取られる清田を無視して続ける。

「さ〜て、何でも言う事聞いてもらおっかな〜♪」

 にっこりと微笑んで、清田の無駄に長い髪の毛をくるくると指で遊ぶ。

「さっさと離れろよっ 。 ///」

「質問に答えたら、離れてあげる。」

 清田を真っ直ぐに見つめて、は言った。

「どうして、さっきは名前で呼んだの?」

 意外と言えば意外な問いに、清田は答えを詰まらせた。

「ねえ、どうして?」

 答えを急かすように、が問う。

「 っ〜〜〜! /////」

 清田は真っ赤になって、大きな声で言った。

「悪かったな! びっくりして呼んじまっただけだよ!」

 ぶっきらぼうに答える清田が、赤くなっていて少し可愛い。

 はくすくす笑った。

「わ、笑ってんじゃねえよ! だ〜、もう! さっさと言えよ、何でも聞いてやっから!」

 清田は勢いよく立ち上がって、から少しだけ離れた。

 まだ赤くなっている辺り、よほど恥ずかしかったのか。

 は真っ直ぐに清田を見つめた。

「…バスケ部の練習見に行くから、ダンク決めてよ。」

 名前の言葉に、清田は首を傾げた。

「そんだけ…?」

 がコクンと頷く。

「あたしね…そのダンクを見て、清田がカッコイイと思ったんだよね。」

 さり気なく言われて、目が丸くなる。

「だからさ、あたしのために… ダンク決めてよ。」

 僅かに頬を朱に染めて、が言った。

 どう反応すべき迷った清田は、しばらくして得意の高笑いをした。

「か〜っかっかっか♪ お安いごようだ! ///// 」

 階下に投げ出されたバッグを引っ掴み、走り出す。

「運痴のお前に、このスパールーキー清田信長様のダンクシュートを見せてやるよ!」

 はキョトンとしたが、やがて。

「こ〜ら〜! 運痴って言うな〜!」

 清田を追い掛け始めた。

 海南高校の名物は、清田信長とが少し大人になるまで、まだしばらく続きそうだ。



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 500キリリクです。
 信長ドリームで、ヒロインは明るい感じの子とのリクですが・・・
 ど、どうでしょう?
 サイト開設以来初のキリリク申告でした。
 嬉しいと同時に、緊張しながら書きました。
 清田… まだ、連載ドリームの方に出てないし…(笑)
 がんばって、書きます。