部活日誌



「あ、君。」

 職員室から出ようとして、私は呼び止められた。

「はい?」

 ケンタのカーネルおじさんを思わせるその人は、私の憧れの人が所属するバスケ部の監督だった。

「バスケ部に、これを渡してもらえるかね?」

 眼鏡越しに、優しさが伝わってくる笑顔。

 こんな人が監督だなんて、バスケ部は本当に恵まれてるな。

 私は湘北高校バレー部のマネージャーをしている、一年四組

 これから部活に行くところだから丁度いい。

 私は快くそれを受け取った。

 それは部活日誌だった。

(マネージャーに渡せばいいよね?)

 私は体育館に向かって足を進める。

 バスケ部の新しいマネージャーは、同じクラスで友達だ。

 彼女は女の私でも見惚れてしまうくらい可愛くて、髪なんかくるくるでふわふわなのだ。

 スポーツだって得意で、頭も良くて、皆が憧れている学校のアイドルなのだ。

 それに比べて、私なんか。

 そう思うだけで、気分が滅入る。

 身長なんか 147cmしかないし、髪だって真っ黒のショートボブだし…。

 成績だって良くないし… 極度の恥ずかしがりやで、特に男の人とはろくに話も出来ない。

 本当は選手としてバレー部に入りたかったのに、運動神経が切れてるから足手まといになちゃって…。

(神様って、絶対に不公平だ…)

 いじけてみたくもなる。

 何で、彼女には2物どころか3物4物も与えて、私には何にもくれないのよ。

 これで彼女がそれらを鼻にかけるような子だったら、私も好きにならなかったのに。

 彼女はすごくいい子なのだ。

 それがまた、羨ましいと同時に妬ましい。

 とか何とか思ってるうちに、体育館が見えた。

 入口には流川楓親衛隊が陣取っている。

 私は覚悟を決めた。

「すみません〜、通して下さい〜。」

 私の声は、黄色い声援にあっさり負けてしまった。

 日誌を渡さないといけないのに、これじゃ無理だ。

「あのぉ〜! 通して下さい〜!!」

 私的にはかなり頑張ったのだが、恐るべし親衛隊。

 そんなに叫んでいたら練習の邪魔になると思うんですけど…。

「へ?」

 突然、見物人が左右にどいた。

 驚く私の目の前に、ボールを追いかけたあの人が…。

「きっ、きゃあ〜!!」

 私は思わずその場に座り込んでしまった。

 弾き出されたボールを追いかけていた流川君と、ぶつかりそうになったのだ。

(こ、腰が抜けた…)

 心臓が張り裂けんばかりにドキドキしている私に、流川君が気付いて首を傾げた。

 私は瞬間、真っ白になった。

(流川君が、私を見ている… も、もしかして…かなり邪魔 !?)

 道を譲りたくても、今の私は立てない。

(あぁ〜! 邪魔をしたい訳じゃないの、ごめんなさい!)

 真っ赤になって俯いた私に、流川君が声をかけてくれた。

「…、何か用か?」

 私は自分の耳を疑った。

(流川君…今、何て?)

「マネージャーに用か? アイツは今いねえけど、中で待つか?」

 もう、心臓止まりそう…。

「る、かわ君… 私を、知ってるの?」

 聞き取れるかどうかと言うくらい、小さくて細い声。

 だって、すっごく緊張してるんだもん。

「チビでショートボブ…四組の、。 アイツの友達だろ?」

 ボールを持った手と逆の手を差し出して、流川君が続ける。

「…大丈夫か?」

 もの凄くびっくりして、同時にそれ以上に嬉しくて…。

 私は、溢れそうな涙を必死に堪えた。

「…腰が…抜けたみたいです…

 自分が情けない…。

 流川君はヤレヤレと溜息をついて、いきなり私を抱き上げた。

「えっ!? ちょ…流川君…!? /// 」

 慌てふためく私に構わず、俗に言うお姫様抱っこで体育館の中へ。

 も〜、嬉しいけど、恥ずかしくて死にそう!

 流川君は私をパイプ椅子に座らせて、練習に戻って行った。

 練習中も、やっぱり流川君はカッコよくて、近くで見れた私は幸せだった。

 部活日誌を届に行っただけだったのに、今日はラッキーな一日だ。

 流川君と初めて話しが出来たし、何より流川君が私の事を知っていた。

(持つべきものは、友達だよね…v)

 私は彼女に感謝した。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 555のキリリクです。
 流川ドリームで、連載ヒロインの友達、見た目は正反対とのリクだったんですが…
 い、いかがでしょう?(汗)
 とりあえず、思いついてから書上げまでが早かったです。
 心がおしゃべりなヒロインが書き易かったのかもしれません。
 期待に添えたかわかりませんが。
 松本はるな様に限り、持ち帰り可能です。