Distance



「牧君、ごめん。」

 突然のの言葉に、牧が首を傾げた。

「あたし、マネージャー辞めるわ。」

「そうですか…」

 決して引き止めたりしないのは知っていた。

「…ごめん。 じゃあね。」

 それでも、止めて欲しかった自分がいた。



「先輩。」

 嫌と言うほど聞きなれたその声に、思わず足が止まってしまった。

「そっちは体育館じゃありませんよ。」

 あたしは振り向けなかった。

 彼を見るのが、怖かった。

「あたし、マネージャー辞めたから。」

 君が驚いたのは、見なくてもわかった。

「じゃあ、練習頑張ってね。」

 その場から逃げてしまいたい。

 練習が嫌いな訳じゃない。

 何か嫌な事があったとか、忙し過ぎるのが嫌だとか、そんなのでもない。

「俺がいるから、辞めるんですね。」

 疑問ではない確信に、ぎくっとした自分がいた。

「俺が先輩を好きだって言ったから、だから辞めるんですね。」

 告白されたのは、ついこの間。

 中学まではセンターだった彼は、監督に向いていないと言われてシューターに転向したのだ。

 一人残って練習しているのを放っておけなくて、一緒に残った事もあった。

 気が付いたら、好きになっていた。

 二つも年下の彼を。

「神君のせいじゃないわ。 ただ、そろそろ受験勉強に専念しないとって思ったの。」

「インターハイが終わったばかりです。 どうせ引退なのに、辞める必要はないじゃないですか。」

 神の刺すような視線が痛かった。

「この間の返事…」

 あたしは、彼の顔を見れなかった。

「あたし、君とは付き合えない。」

 一瞬の沈黙が、もの凄く長いものに感じられた。

「俺が年下だからですか?」

「そうよ。」

「構いません。」

「あたしが嫌なの。」

 そこで始めて、は神を見上げた。

「神君の事は好き。 だけど、付き合えない。」

「わかりません。 好きなのに、付き合えないなんて…」

「その内わかるようになるわ。 じゃ、さよなら。」

 は二度と振り返らなかった。

 その背を見送りながら、神が唇を噛み締めた。



これでいい。―――――

彼の気持ちはきっと恋じゃない。

優しくされて、勘違いしているだけなんだ。

二つの年の差が、互いを傷付ける事になる。

どんなに望んでも、この距離は縮まらない。



× × × × × × × × × ×



 7777hit リクです。
 遅くなりました。(汗)
 ヒロインが年上で、切ない系とのリクでした。
 (滝汗)
 …ごめんなさい、悲恋です。


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