宿敵



8月15日。−−−

 決戦の時は迫った。

「そんな大した物じゃないわよ。」

 いえ、彩子さん。

 貴女は楽しいでしょうが、他はそうは思っていないようです。

「深雪!」

「はい。」

「この後、全員で食事に行くからな。 強制参加だぞ!」

 強制参加を強調したのは、三井さん。

 深雪は少し困ったように首を傾げた。

「これから、ですか?」

「都合が悪いなら、無理して来る事はないぞ。」

 そう言ったのはキャプテンの赤木。

「あ、いえ… 大丈夫です。」

 にっこりと笑った深雪に、赤木の口元が緩む。

「ゴリの分際で、な〜に照れてやがる。」

 自分の背後で呟いた桜木にゲンコツを喰らわせ、赤木は手を叩いた。

「よし、ラストだ!!」

 気合十分。

 夏真っ盛りである。



 湘北のメンバー(一部)が、急な食事会を決定したのには訳があった。

 昼休みの事。

 湘北おなじみの問題児軍団は、体育館の裏で深雪を見かけた。

 深雪は電話中だった。

 そこまではいい。

 問題は。

「はい、じゃあ夕方に"バニラ"で。 遅れないで下さいよ、先輩。」

 と言う、深雪の言葉。

 深雪が電話で親しく話し、待ち合わせの約束まで取り付ける"先輩"。

 湘北のメンバーの知る所、相手は藤真に間違いない。

(夏休みにまで…)

(他の学校のヤツに…)

(しかも藤真にはなおさら…)

(深雪を取られてたまるかよ!)

 目と目で会話が成立した問題児軍団は、こうして深雪と藤真を会わせない為の、食事を計画したのだ。

 いくら深雪に好意を抱いているとは言え、藤真は紳士である。

 夜中に連れ出すような真似はしないだろう。

 したがって、夜9時頃解散すれば、藤真が深雪に会う心配はなくなるはずだ。

(こんな事を真面目に考える時間があるなら、もっと練習しろよ…)

 とは、赤木の弁である。

 キャプテンは相変わらず苦労しているようだ。



夜 8:38。

 騒がしく長々と居座ってしまった店に頭を下げて、湘北バスケ部は解散した。

「深雪、送ってやるよ。」

 真っ先に声をかけたのは三井。

「…乗れ。」

 自転車の後ろを顎で指すのは流川。

「キツネ、テメェは一人で帰りやがれ!! 深雪サンっ、この天才が家まで送りましょう。」

「深雪、こんな馬鹿共放っておいてあたしと帰りましょう。」

 ちゃっかり争奪戦に参加している彩子。

「じゃ、俺とアヤちゃんと三人で帰ろうよ。」

 宮城がすかさず言った。

「あ、あの…」

 何か言おうとした深雪の肩に、背後から手が伸びてきた。

「「「「なっ!」」」」

 この場にいるはずのないその人に、深雪以外の全員が驚き言葉を失った。

「…藤真じゃないか。 こんな時間にどうした?」

 藤真は視線だけを赤木に移して微笑んだ。

「迎えに来たんだよ、危ないからな。」

 と言って、後ろから深雪を抱きしめる。

 あまりの出来事に、4人は固まり、彩子はシャッターを押している。

「先輩、遅くなってゴメンなさい。」

 深雪は上目使いで藤真を見上げる。

「いいよ。 さ、行こうか。」

 深雪の手を引く藤真に、我に返った三井が言葉を投げる。

「こんな時間からどこに行くってんだよ!」

 突然怒鳴られて、二人は顔を見合わせて首を傾げた。

「どこって… 俺の家だけど。」

なにっ!?

「はい、一日お世話になるんです。」

なんですとっ!?

「お疲れ様でした。」

 笑顔で去る深雪に、石になった4人は動けず。

「いい絵が撮れたわv」

 彩子は笑顔で見送った。



「3年ぶりか… 母さんが会いたがってるぞ。」

「私も早く会いたいです。」

 ほのぼのとした空気が、実に微笑ましい。

 湘北のメンバーがショックに打ちのめされている事に、二人は気付いていなかった。

 湘北メンバーにとって、宿敵は、やはり藤真健司その人であろう。



× × × × × × × × × ×



 夏休み企画、第一弾は華喬殿のリクです。
 逆ハーちっくで、藤真に会わせないように頑張る湘北メンバーとのリク。
 コレでどうだ、まいったか、お泊りだ!(笑)
 彩子さん! 写真焼き増しして下さい!!



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