視察日記



 蝉の鳴き声が耳障りだ。

 余計に暑いと感じさせる。

 普通の高校生は、夏休みを満喫しているだろう。

 しかし、翔陽高校バスケ部は、今日も練習に励んでいた。

 今は昼休み。

 藤真は体育館裏のフェンスに寄りかかっていた。

「ど〜いてっ!!」

 突然頭上から声が聞こえたかと思うと、視界が暗くなった。

 驚いて振り向くと、調度フェンスの上からダイブする所だった少女と目が合う。

「うわっ!」 「きゃっ!」

 2つの悲鳴が重なった。

 あまり咄嗟の事で、藤真が避けきれなかったのだ。

 少女はそのまま藤真の上に落ちた。

「いててだよぉ〜…」

 数回頭を振って目を開けた少女の前に、藤真の顔があった。

「ふ、藤真健司!!」

「え?」

 驚いた藤真と目が合う。

「あ、そのっ! さよなら!」

 慌てて立ち上がり、少女は手を振って駆け出した。

 その手を引っ掴んで、藤真はにっこり笑った。

「うちに何か用?」

 少女は勢いよく首を振った。

「あたしは通りすがりの少女A、たまたま貴方の上に落ちただけ…」

… 敵状視察って所かな?」

 少し強く腕を捕まれて、少女・は観念したように両手を上げた。

「ご名答。 当たっても、何も出ないけどね。」

 がっくりと肩を落とした少女に、藤真は少し考えて声をかけた。

「視察に来たなら、ゆっくり見て行けよ。 別に隠れなくていいからさ。」

「堂々とスパイ行為なんか出来ないですよ。」

「こそこそされた方が気が散るんだ。」

 午後の練習が始まる。

 ご丁寧に藤真は椅子まで用意してくれた。

 ノートに目を通して、藤真が言った。

「よし! 練習を始める!!」

 そう言って自分の近くに置かれたノートに、はにやりと笑った。



「藤真、ノートがないぞ?」

 練習終了後、花形が首を傾げていた。

「ノートなら、オレのロッカーの中にあるよ。」

「さっきまでここにあっただろう?」

「それは、多分が持って行った。」

 そう言って藤真は不敵に笑った。

「…何のノートなんだ?」

「ま、たいした物じゃないさ。」

 そう言いながらも、藤真はどこか楽しそうだった。





8月○日(晴れ)

あまりの暑さに気が抜けて、フェンスから飛び降りる時に(よりによって)藤真にぶつかってしまった。

スパイなんて追い出されるかと思いきや、アヤツはご丁寧にも椅子まで出してくれた。

そして、持って帰って下さいと言わんばかりに、ノートをあたしの近くに置いたのだ。

その○秘ノートはもちろん、お土産として頂いたわvvv

このノートさえあれば、翔陽なんてイチコロよ!

どんなに練習したって、うちには勝てっこないわ!



 そこまで書いて、は鞄からノートを取り出した。

(翔陽ってばどんな練習してんだろう?)

 ぱらっとページを捲る。

「ん?」

藤真健司。

身長 178・体重 66。

ポジション PG・利き手 左

得意なシュート 3P・フェイダウェイジャンプショット。

・・・・・・・・・・・

「何コレ〜っ!!」

 は絶叫した。

 翔陽強さの秘訣とか、練習内容とか、そんな感じの物が書いてあるかと思いきや、藤真の個人プロフィール帳ではないか。

「このくらい、とっくに調べてるわよ〜!!」

 しかも、メッセージ付きである。

 なになに………

『視察に来て、手ぶらで帰れないだろう?

 かと言って、うちの情報をやる訳にいかないんでな。

 のヤツラによろしく言っておいてくれ。

 次の練習試合が楽しみだ。

PS 少し痩せた方がいいんじゃないか?』

「うっき〜!! おのれ、藤真ぁ〜!!!」

 ノートを床に思いっきり叩きつけようとして、は手を止めた。

 調べてある情報はともかく、藤真の個人情報がびっしり書かれているのだ。

 捨てるには、惜しい。

「…せっかくだから、コレはあたしが貰っておくわ。」

 本日の収穫。

 藤真の個人情報。

 以上。



× × × × × × × × × ×



 きららちゃんのリクです。
 ギャグで、ヒロインは面白い子との事。
 視察日記…
 新シリーズ始めようかしら?(笑)
 さん、にそのノート売って下さい。


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