変わらない物・変わった物



「はい。 今日の練習は終わりです。 皆さんお疲れ様でした。」

 コーチの一声で気が抜けたのか、部員達はふらふらとした足取りで各自更衣室に向かった。

ちゃんっ!」

 突然肩を掴まれて、は振り向いた。

「今日行かなあかんとこがあってな。 オレ帰るけど、気ぃ付けや。」

「ん、お疲れ様。」

 何に気を付けるのかわからないが、いつもの事なのでは軽く流した。

 少年はの笑顔に少しだけ安心して帰って行った。

「さ、。 練習だ。」

「はい!」

 泉沢学院・中等科、バスケ部。

 男子バスケ部のキャプテン藤真は、練習終了後に二人の一年の個人練習を見ている。

 一人が帰って行ったので、今日はだけだ。

「各シュートを20本、休憩を入れて 1 on 1 だ。 1本取るまで帰れないぞ。」

「はい!」

 夏の大会、前年になく好成績を残せたのは、の活躍とも言える。

 冬の大会を目指して、練習にも熱が入るのだった。



 藤真から1本取るなんて至難の業で、終わった時は日が落ちて辺りがすっかり暗くなっていた。

「よし、終わりだ。 着替えて来い。」

「まだモップかけてませんよ?」

 藤真が苦笑った。

「そんなふらふらで、モップ掛けなんかさせられないだろ。 俺がやるから、もう上がれ。」

「ごめんなさい〜…」

 はお言葉に甘える事にした。

 中学一年の女の子に、練習後の個人練習はかなりキツイ物がある。

 それは藤真もわかっているのだが、の成長が女子バスケ部必勝の要になるのだ。

 部員達に鬼コーチと囁かれているのは知っている。

 しかし、文句一つ言わず練習に励む、には、大したものだと感心しているのだ。

「疲れただろう?」

「…少しだけ。」

 素直に頷いたの頭を、優しく撫でる。

「お腹空いただろ、ラーメンでいい?」

「スウィート行きたいです。」

「…ケーキを夕飯でカウントするな。」

「…ラーメンでいいです。」

 無邪気で素直な言動の一つ一つに、妹がいたらこんな感じだろうかと思う。

 あの頃は恋愛感情なんてなかった。





「そんな事もありましたね。」

 が小さく笑った。

「夕飯にケーキは驚いたよ。」

 首を竦めた藤真に、が微笑む。

「疲れている時には、甘い物が食べたいんですよ。」

 チョコレートパフェをキレイに平らげて、二人は席を立った。

 財布を取り出そうとした藤真を、が制す。

「今日は私が出します。 いつも奢って貰ってますから。」

『私が出します。 先輩は出さないで下さい。』

 昔話をしたためか、あの頃と今のが重なった。

 無邪気で素直でどこか掴み所のない少女は、あの頃のまま変わっていない。

 あの頃と変わったのは、藤真の感情。

お前には悪いが、俺は本気だ。−−−

 懐かしい面影を思い浮かべて、藤真はの髪を撫でた。



× × × × × × × × × ×



藤真 「…(溜息)」
亜椎 「言わないで、わかってるから。」
藤真 「リク内容は、昔話だっけ?」
亜椎 「そうです。」
藤真 「あれだけ?」
亜椎 「…勘弁してください。 色々書きたいのはあったけど、連載ドリームに支障が…」
藤真 「確信に触れないように書くのも大変なんだな。」
亜椎 「…精進します。」


back