(男において行かれた…か。)

 ベッドの中で、藤真は先程清田に聞いた話を、ぼんやりと思い出していた。

 清田は作り話だと強く主張したが。

 は、どんな気持ちでその話を聞いていたのだろう。

 窓の外。

 三月も終わると言うのに、雪の降りそうな分厚い雲が出ている。

と。

 藤真は目を細めた。

 誰か、歩いている。

 もう真夜中とも言える時刻に。

 見間違う筈なんてない。

 藤真は、ハンガーにかけてあったジャンパーを着て、片手にもう一つジャンパーを持って部屋を飛び出した。





ちゃん!」

 藤真は少女を呼び止めた。

 どこまで行くのだろう?

 は時折立ち止まっては歩いていた。

 藤真の声で、振り返る。

「体、冷やすよ?」

 と、持っていたジャンパーを肩から被せてやる。

 「先輩…」

 藤真を見上げるその瞳は、微かに怯えていた。

「どうした?」

 少し屈んで、の目線に合わせてやる。

「声が…」

「声?」

 はじぃっと藤真を見つめていた。

「女の人の声が…」

 は震える指で、前方を指差した。

(湖?)

 清田が話していた、いわく憑きの湖。

 いつの間に、こんな所まで来ていたのだろう。

 藤真はの肩を叩くと、湖のほとりに立った。

 薄暗い、不気味な辺りを見回す。

「何もない…」

 振り返ろうとして、藤真は言葉を飲み込んだ。

 藤真が立っている、すぐ側。

 湖の一角が、赤く染まっている。

「なっ…!?」

 その場から離れようとして、何かに睨まれた。

 着物姿の女が、湖の中から藤真を見上げていた。

「っ…!!」

 何か言うより先に、湖に引きずり込まれた。

「先輩!」

 は慌てて湖のほとりにしゃがみ込み、大きく揺れる水面を見つめていた。

「先ぱ…!」

 着物姿の女。

 水面に顔を出し、にゆっくり手を伸ばす。

 女の指先が、の頬に触れた。

 氷のように、冷たい。

ちゃん!』

 ふと、樋口の顔が脳裏を過ぎった。



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ココで一つ、ネタばらしを。

湖に引きずり込まれた藤真先輩。

湖から出ようとした所、湖には氷が張っていて…

幽霊がヒロインに手を伸ばすのも見えてはいるのに、何も出来ない。

そんなネタもありましたが。

藤真先輩をいじめるのは、としてはちょっと抵抗が…

と言う訳で、湖に引きずり込まれて終了となりました。

え?

どうでもいいですって?(そりゃそうだ)

                           '05 3/30 亜椎 深雪


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