喰えない男


「はぁ〜…」

 日番谷は溜息を吐いた。

「オイ、帰るぞ、…」

 同じ科白を何度言ったかわからない。

「待て、日番谷! 虚の気配だ!」

 場所は現世。

 日番谷は視察と言う任務のため、現世に下り立っていた。

 しかも。

「…お前な… 毎回毎回いい加減にしろよ…」

 を見て、日番谷は小さく息を吐いた。

 日番谷が現世に発つ際には、必ずと言ってもいいほどが付いて来る。

「よいではないか。 一人より、二人の方が楽しいだろう?」

 言うや否や、は地を蹴った。

 宙に現れた虚に向かって、斬魄刀を振り下ろ…

「喰らえっ! ジン太ホームラン!!」

「ん?」

 突然耳に届いた子供の声。

 は首を傾げてそちらの方へ視線を投げ…

「え??」

 サッカーボールだろうか?

 それがまっすぐにの方に飛んで来る。

ドゴッ

「!?」

 見事、虚に命中した。

 驚くの前で、虚は塵のように消えて…

スカッ

 振り下ろした斬魄刀は、虚しく宙を斬った。

 突然過ぎた予想外の出来事に、驚いてバランスを崩したのだろう。

「き、きゃぁっ…!」

 の小さな体が、まっ逆さまに…

「っと!」

 ふわっと… 何かに受け止められた。

「あ、ありがとう… 日番谷…」

 をしっかりと受け止めて、日番谷は地に着地した。

「バカ野郎… 勝手について来た挙句に、勝手に怪我なんかさせねえよ。」

 じっと、バッドを持った少年・ジン太を見据えた。

「…アンタ達二人が… この地域担当の死神か?」

 眉を寄せながら、ジン太が続ける。

「…霊圧をほとんど感じない女と… なんだよ、まだガキじゃねえか…」

 カチン。

 子供にガキ呼ばわりされた事が癪に障ったのだろう。

 日番谷の額に青筋が浮かんだ。

「ったく… こんなヤツラをよこすなんて… 尸魂界も何考えてんだか…」

 日番谷が眉を寄せた。

「オイ、お前… 俺達が見えるのか?」

「あ?」

 突然の日番谷の声に、ジン太が目を丸くした。

「さっき、虚を消したのもお前だろ? 尸魂界も知ってるみたいだな… 何者だ?」

 鋭く細められた日番谷の目に、ジン太はわずかに怯んだ。

「な、何だよ… 俺は…」

ぽん。

 何か言いかけたジン太の肩を、誰かが叩いた。

「いやァ、どーもすみませんねェ… この子が何かご迷惑おかけしました?」

 突然の声に、は目を丸くした。

「喜助…!」

 日番谷に抱えられたまま、小さく叫ぶ。

「はーい♡ どーも、さん♡」

 にこっと手を振る浦原に。

(? 誰だ? 聞いた名前だな…)

 日番谷が眉を寄せた。

「そう睨まないで下さいよ。 十番隊隊長・日番谷冬獅郎さん。」

「何故俺を知ってる?」

「知っていますとも。 貴方は有名ですから。」

 浦原は小さく首を竦めた。

「アタシは浦原喜助と申します。 この地域の死神さん方に、尸魂界よりの道具の受け渡し係としてお手伝いさせて頂いてる者っスよ。」

 浦原の声に、ちらっとジン太を見る。

「あ、ついでに言うと、この子の保護者です。」

(………なるほど。 だから、尸魂界を知ってんのか…)

 浦原は細く笑った。

「…もう一つついでに言いたいんですけど…」

 日番谷を見据える。

「アタシ、自分が思っていたよりも嫉妬深いみたいなんスよ。 そろそろ、さんを放していただけないでしょうか?」

 浦原の声に、を抱えたままだったと言う事を思い出した。

「下ろせ、日番谷。」

「ああ、悪りぃ…」

 ゆっくりと、を下ろす。

 日番谷は目を細めた。

 浦原喜助と言うこの男… どうも喰えない…

 まったくと言ってもいいほど霊圧も感じないのに、喉許に刃を突きつけられている様な、そんな気がする。

「…クスッ♡」

 浦原は小さく笑った。

「いやァ、噂には聞いてましたけど…」

 日番谷を見て、にこりと笑った。

「最年少隊長さんは、随分可愛らしいっスね。」

 突然の言葉。

「は?」

 日番谷は自分の耳を疑った。

「それじゃ、アタシは失礼しますよ。 御機嫌よう、さん。」

 肩越しに、日番谷を見やる。

「さようなら、小さい隊長さん…♪」

ぷち

「浦原っ! てめえ…!!」

「落ち着け、日番谷。 安い挑発だ。」

 が優しく嗜める。

「くそっ… 何だアイツは…! 、お前アイツ知ってんのか? 何者だ?」

 日番谷の声に、は首を竦めた。

「見ての通り、喰えない男だ。 小さい隊長さん♪」

 と、イタズラに笑う。

「マネすんな! 怒るぞ!」

 日番谷が声を荒げる。

「落ち着け、小さい隊長さん♡」

「♡ マーク付けてもダメだ!!」



 この後しばらく。

 この言葉で、にからかわれる羽目になった。

「ちくしょう、浦原喜助… 覚えておけ…!」

 日番谷は苦々しく吐き捨てた。









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K 氏より、メッセ中にリク頂きました。

『ん〜っとねー、ギャグ甘!』

それだけかと思ったが、甘かったです。

『浦原出して!』

浦原さんですかー!? そんな無茶な…(汗)

冬獅郎くん、喜助さんと絡みないよ?

と、とりあえずこんな感じでどうでしょう?? これ以上は無理です…



2006. 1. 2.   亜椎 深雪


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