放っとけない


ザッ

 十番隊・隊舎。

「あ、日番谷隊長! お疲れ様です!」

 日番谷の姿を見て、隊員達が頭を下げる。

「おう。」

 日番谷は短くそう答えて、隊舎の門を目指して歩いていた。

 今日は、同じ十番隊で幼なじみのと、流魂街の視察に出掛ける事になっている。

 久しぶりの流魂街だが、遊びに行く訳ではないので、気持ち緊張していた。

「あ!」

 突然の声に、視線を投げた。

「冬獅郎ーっ、遅いよ〜!」

 がブンブンと手を振っているのが見える。

「お前と違って、俺は忙しいんだよ。」

 軽く憎まれ口を叩いて、二人並んで歩き出す。









「流魂街も久しぶりだねー。」

 二人で並んで歩く、懐かしい街並み。

「ね、覚えてる? 正月にさー、桃と三人で羽根つきしたの。」

 の声に、日番谷は細く笑った。

「ああ。 二対一で、俺ボコボコにされたよな。」

 子供の頃の、いい思い出である。

「あの頃は楽しかったな〜…」

 の声。

「どうした、? 今の生活が嫌なのか?」

「ううん、別に嫌じゃないよ。 だけど…」

 わずかに、その瞳が揺れる。

「…死神の仕事って… 楽しい事ばかりじゃないから…」

 十番隊に配属されて直後。

 は同期の友達を亡くしていた。

…」

 日番谷が眉を寄せる。

「嫌だな〜、そんな顔しないでよ。 あたしは大丈夫っ!」

 明るい声でそう言って、はにこりと笑った。

「あ…」

 何かを見つけたのだろう。

 声を投げる。

 一本の木の周りに、数人の子供達が群がっていた。

「どうしたの?」

「羽根が、木の枝に引っかかっちゃったの。」

 小さな女の子が眉を寄せた。

「羽根?」

 と日番谷が木の枝を見上げる。

 なるほど。

 羽根つきの羽根が、木の枝に引っかかっていた。

「ちょっと、待ってて。 あたしが取ってくるから。」

「オイ、…」

 日番谷の声も聞かず、は地を蹴った。

 一息で木の枝まで上り、地面の方へ羽根を落としてやる。

「ありがとう、死神のお姉ちゃん!」

「今度は引っかけちゃダメだよー。」

「はーいっ!」

 元気に走り去る子供達を見て、は細く笑った。

「オイ、。 危ねーだろ。 さっさと下りて来いよ。」

「大丈夫だって。 心配しなくてもへーきへーき。」

 日番谷の声に、ヒラヒラと手を振って答える。

と。

ズルッ

「きゃっ…!」

 足を滑らせたのだろう、その体が木の枝から落ち…

ふわっ

 衝撃がなかった。

 恐る恐る目を開けて、その理由を知った。

「と、冬獅郎…」

 日番谷にキャッチされている。

 日番谷は呆れたように眉を寄せていた。

「だから、危ねーって言っただろ。 ほんと進歩しないな、お前は。」

 子供の頃も、同じような事があった。

 あの頃の日番谷は今よりも小さく。

 木の上から落ちたを受け止めようとして、見事下敷きになってしまったのだ。

 側で、雛森が泣きそうな顔をしながら慌てていたのを覚えている。

 加えて。

「…色々話も聞いてるぜ。 十一番隊の道場に入り浸りらしいな。」

 一部では、のお転婆ぶりは有名だった。

「な… 何よ?」

 何か言いたそうに自分を見る日番谷。

 は恨めしそうに日番谷を見据えた。

「ほんっと、危なっかしい奴だな、…」

 日番谷は小さく息を吐いて、ゆっくりとを地面に下ろした。

「別にいいでしょ。 こっちの方があたしらしいじゃない。」

 は小さく舌を出して、ぱたぱたと駆け出した。

 その背中を見送って、日番谷は口元だけで細く笑った。

「………だから放っとけないんだよ、バカ。」









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乙宮あんずさまよりリク頂きました。

『甘めで、ヒロインは明るく元気 + お転婆』と言う設定でした。

リク消化まで時間がかかってすみませんでした。



2006. 3. 6.   亜椎 深雪


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