強くなりたい


ガガガッ

 大きな音と同時に、岩が砕ける。

「ちっ!」

 氷輪丸を片手に、日番谷が舌打ちをした。

「まだまだ! 行くぜ!」

 地を蹴る。

「霜天に坐せ! 氷輪丸!!」

 名を呼んで、その斬魄刀の能力を解放させた。

 溢れた霊圧が、水と氷の竜を作り出す。

ゴア…

ザバァッ

 竜はまっすぐにに突っ込んだ。

「ふむ。 なかなか速い…」

 難なく交わして、が細く笑う。

 辺りには冷たい空気が満ちていた。

「氷雪系の斬魄刀か… 悪くないな。」

 はらはらと舞う、水しぶきや氷の粒。

 戦いの最中にあっても、それはとても綺麗だった。

「!」

 は目を丸くした。

 氷輪丸を構えた日番谷が、真後ろにいる。

ザン

 その剣を交わして、は細く笑った。

「いい動きをするな、日番谷隊長!」

 その声に、日番谷が目を細めた。

 ここは、尸魂界。

 双極の丘付近に造られた、地下空洞である。

 この場所で、と日番谷は戦っていた。





 事の始まりは。

 の一言。

『涅に新しい封霊環(ふうれいかん:霊力を押さえる環)を貰った。 どれほど押さえられるか知りたいから、軽く手合わせをしないか?』

 日番谷は耳を疑った。

『手合わせ? 俺が? お前と?』

 は頷く。

『氷雪系最強の斬魄刀・氷輪丸。 その力を知っておこうと思うのだ。』

『…断る。 なんで、俺がお前と戦わねーといけないんだよ。』

 日番谷の声に、は眉を寄せた。

『…初めは斑目に頼もうとしたのだが… 山本の許可が下りなかったのだ。 隊長格でないとダメだと念を押された。』

 王族特務の一角を担う、防人一族・

 それが持つ力は強大である。

 相手が三席なら、許可を下す訳には行かないだろう。

『で? 何で俺なんだ?』

 溜息交じりの日番谷の声に、はにかっと笑って答えた。

『理由1:女子に剣を向ける事は出来ぬ。』

 ぴっと、人差し指を立てた。

 理由1により、砕蜂、卯ノ花は除外された。

『理由2:軽く手合わせをしたい。 だから、更木は適任ではない。 白哉も同じだ。』

 ぴっと、中指を立てるに、日番谷が首を傾げた。

『朽木も? ああ… 婚約者相手に、手合わせなんか出来ねえよな。』

 は首を振った。

『そうではない。 白哉の頭の固さを考えろ。 イライラして加減が出来なくなる。』

 呆れたように溜息を吐く日番谷に首を竦めて、は薬指を立てた。

『理由3:京楽や浮竹、駒村は、笑うだけで取り合ってくれぬ。 涅も同様だろう。』

 確かに…

 想像できたので、それ以上何も言わなかった。

『…で、俺か?』

 はぽりぽりと頭を掻いた。

『うむ。 日番谷なら、上手く加減しながら相手になってくれるだろう?』

 小さく首を傾げて、日番谷を見据える。

 日番谷は、溜息を吐いた。

『はぁ… 仕方ねーな…』

 その声と同時に、が口を利く。

『まぁ… 私としては… 子供相手に戦うのも解せぬのだが…』

 カチン。

 日番谷は思い切り眉を寄せた。

『…かかって来いよ、。 鬼道でも剣技でも相手になるぜ。』





 思えば、と手合わせが出来るのだ。

 それはそれで、ラッキーかもしれない。

 傷付け合うを嫌うは、誰が頼んでも手合わせなど受けないから。

 日番谷は眉を寄せた。

「で? 手合わせって言ってたわりに、お前は何もしないのか?」

 さきほどから避けるだけで、は斬魄刀に触れすらしていない。

「…あんまり、退屈させんなよ?」

 日番谷の姿が消えた。

キラッ

 氷の粒が煌いた。

ガギッ

 振り下ろされた斬魄刀を、鞘で受ける。

「さすが隊長… 速いな。」

 は笑った。

 日番谷が目を細める。

「…あまり、なめない方がいいぜ?」



 は目を丸くした。

 解放された氷輪丸。

 その柄から伸びる、鎖鎌が背後から…

ギィンッ

 斬魄刀を抜いた。

 その鎖鎌を叩き落す。

 同時に、日番谷の腹部を蹴り上げた。

 日番谷は身を反転させて、地に足を付けた。

 が、軽く睨む。

(二度… 背後を取られたか…)

 確かに、甘く見すぎていたのかも知れない。

ダッ

 日番谷が地を蹴った。

 水と氷の竜が、その剣の動きに合わせてに向か…



 構える。

「破道の三十一・赤火砲!」

ドォン

 大爆発が起こった。

「…っつ!」

 舞い上がる土埃に、日番谷が眉を寄せる。

ザバッ バラバラ…

 の鬼道を受けて、水が散った。

(詠唱破棄の中級鬼道… 封霊環付けて、この威力かよ…)

ガッ

「…っ!?」

 腕を捕まれた。

 驚く間もなく、逆の手で死覇装を捕まれ。

ズダァン

 投げ飛ばされた。

「クっ…! クソッ…!」

 体を起こして、再び向かってくる日番谷に。

 斬魄刀の切っ先を向ける。

 咽元に刃を突きつけられて、日番谷は息を飲んだ。

「あはっ♡ 一本取った! これまでだな。」

 が悪戯に笑って、斬魄刀を収める。

 その笑顔に、気が抜けた。

 ペタッと、その場に座り込んだ。

(……………)

 日番谷はわずかに唇を噛んだ。

 氷輪丸の始解を相手に、詠唱破棄の中級鬼道しか使わなかったあげく。

 は斬魄刀の解放すらしていない。

 隊長格である自分を相手に、これほどにも余力を残した戦いが出来るのだろうか。

 の強さは、どれほどなのだろう。

 スッと、手を差しのべられて、日番谷は我に返った。

「ありがとう、日番谷。 どれほど押さえられているか、大体でわかった。 お前のおかげだ。」

 その笑顔すら悔しくて、日番谷はぷいっとそっぽ向く。

「………相手にならなくて悪かったな…」

 ゆっくりと立ち上がりながら、そんなことを呟いた。

「そんな事ないぞ…」

 が小さく首を振る。

 鬼道を使う気はなかった。

 少し分が悪いと判断して、打ったまでだ。

「拗ねるな、日番谷。 お前は強いだろう。」

「…なぐさめにしか聞こえねーよ。」

 は首を竦めた。

「…戦場で生死を決めるのは、剣の強さではない。 生きたいと願う心の強さだ。」

 日番谷がを見て目を丸くする。

 自身に足りない物。

 日番谷は、それを持っている。

「自分を信じてやれ、日番谷。 お前は強い。 そして…」

 黒曜石の瞳が、まっすぐに日番谷を見据えた。

「心強き者は、どこまでも強くなれる。 だから、案ずるな。」

 日番谷は一度、ゆっくり息を吐いた。

「…いつか絶対に… お前に勝ってみせるからな。」

 グッと、強く拳を握った。

 強くなってみせる。

 その決意を映した瞳が揺れた。

 は小さく笑った。

「楽しみにしているぞ。」









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美香さまのリクです。

連載ヒロインで、戦わせて下さいとの事でした。

バトルシーンは、緊張します。 精進します、ハイ。



2006. 1. 12.   亜椎 深雪


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