惚れた方が負け


「う゛〜………」

 頭がぼーっとする。

 昨日から調子が悪いとは思ったが、今日は起き上がれない。

 完全に、風邪をひいたようだ。

 少女の名は、

 十番隊所属の死神である。

 本日、不調のため欠勤する旨は伝えてある。

 特に押していた仕事もないので、業務に支障はないだろう。

(あ〜… 頭痛い…)

 きっと熱が上がっているのだろう。

 目が回る。

 年末、忙しく過ごしていた為、その疲れが回ったのだろう。

 体は正直だ。

「………」

 は目を閉じて、ゆっくり息を吐いた。

 なんと言うか…

 寝込んでいる時、側に人がいてくれないのが淋しい。

 具合が悪い時ほど、一人暮らしが嫌になる時はない。

ひやっ

「きゃぁっ…!」

 額に突然、冷たいものが触れては悲鳴を上げた。

 勢いよく、起き上がってそれを見据え…

クラッ

 頭がクラクラする…

 耐え切れず、再び布団に体を沈めた。

「…バカ野郎…」

 耳に届いたのは、聞き慣れた無愛想な声。

「具合が悪いってのに、体を動かす奴があるか。」

 そう言って、再びの額に手を添える。

 日番谷だった。

「と、冬獅郎くん…? どしたの?」

 と日番谷は、流魂街の頃からの幼なじみ。

 仕事中もよく名前で呼んでしまい、怒られている。

「休むって聞いて、心配になってな。 様子を見に来たんだよ。」

 熱を持った額に、日番谷の手の冷たさが心地良い。

「で、大丈夫か?」

 日番谷は続けた。

「コレ、松本から。 水と、桃缶な。」

 の布団の側に、それを置いた。

「お前の事だ、何も食ってねーんだろ? 今、開けてやろうか?」

「だ、大丈夫… 置いといて…」

 隊長である日番谷に気を使わせてしまったと言う、申し訳ない気持ちと。

 寝ている姿を見られた、恥かしい気持ち。

 そして。

 わざわざ、見舞いに来てくれたと言う嬉しい気持ちが、胸に込み上げて…

 気を抜くと涙が出そうだ。

「冬獅郎くん、ありがとう… わざわざ来てくれて… でも、本当大丈夫だから、仕事に戻って…」

 本当は、行かないで欲しい。

 だが、隊長である日番谷は多忙である。

 自分のために時間を割いてくれるのは嬉しいが、同時に申し訳ない。

 熱のためか、潤んだ瞳で見上げられて、日番谷は小さく息を吐いた。

 まっすぐに、を見据える。

「…お前の性分だとは知ってるが、強がるな、。 具合が悪い時くらい、頼ってくれてもいいだろ。」

 子供の頃から、はそうだった。

 日番谷や雛森より、少し年上だったためか、二人の前では強がってしまう節がある。

「…俺じゃ、頼りねーか?」

 その淋しそうな声に、は小さく首を振った。

「そ、そんな事ないよ。 だけど…」

 何か言いかけたを遮る。

「あとで、雛森も来るって言ってた。 それまでは、俺がついててやるから、心配すんな。」

 優しく微笑まれて…

 熱を持った顔が、更に熱くなった気がした。

 子供の頃からそうだった。

 日番谷には、どこか敵わない。

「じゃ… お言葉に甘えちゃおうかな… 桃缶開けて。」

 惚れた方が負けとは、よく言ったものだ。









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中野愛理さまのリクです。

強がりだけど、本当は淋しがりやなヒロインとの事でした。

一番人恋しくなるのは、風邪引いて寝込んでる時かな?と言う亜椎の率直な考えの為、こんな感じに仕上がりました。

日番谷祭り、ご参加ありがとうございます。



2006. 1. 16.   亜椎 深雪


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