チケット


「雛森副隊長に、映画のチケットを二枚貰ったんですよ。」

「………で?」

 突然のの申し出に、日番谷は眉を寄せた。

「いや、その… 誰と行こうかなーと思いまして………」

 その顔色を伺うかのように、日番谷を見据えた。

「ちなみに、隊長。 今日、これからのご予定は?」

 十番隊の執務室。

 十番隊所属のは、日番谷の机に両手を付いて、その顔を覗きこんだ。

 何やら、期待されているようなその眼差しに、日番谷が小さく息を吐く。

「今日は別に………」

コンコン

 日番谷の声を遮るかのように、ドアを叩く音が響いた。

「どうぞ。」

 松本が声を投げる。

がちゃっ

 顔を覗かせたのは。

! 迎えに来たぞ!」

 九番隊副隊長の、檜佐木だった。

 実は…

「もうっ、お兄ちゃんってば! タイミング悪過ぎ!」

 そう、の兄なのだ。

「今日は迎えに来なくても大丈夫だって、言ったでしょ!」

 しかも。

「そう言うな、。 お兄ちゃんは、可愛いお前を心配してるんだぞ。」

 妹であるを溺愛している。

 ぷぅと頬を膨らませるの頭を、ぽんぽんと撫でながら檜佐木が言った。

「お?」

 と、の手に握られた映画のチケットに気付いて、それを取り上げる。

「あ、ダメ! 返して!!」

 慌てて手を伸ばすが、よりもずっと背の高い檜佐木にはどうしても届かない。

「この映画、俺見たかったんだよな。 よし、一緒に行くか、!」

「!」

 は眉を寄せた。

 日番谷と一緒に行きたいと思っていたのに…

 ここで檜佐木が出て来たのは、まったくの計算外だ。

 そんなの心情も知らず、檜佐木はの手を引いた。

「ほら、行くぞ!」

「あ、ちょっと…! 待ってよ、お兄ちゃん…っ!」

 の言葉に聞く耳持たず、ドアの方へズルズルとを引き摺ってゆく。

「あ、あたしは…!」

 は唇を噛んだ。

「あたしは、日番谷隊長と行きたいの!!」

「………最初からそう言えよ、バカ。」

 驚く檜佐木の手の内から、チケットを抜き取って。

 日番谷は小さく息を吐いた。

「って訳で、妹借りるぜ、檜佐木。」

 目を丸くする檜佐木から、を攫う。

「ちゃんと家の前まで送っていくから、心配すんな。 じゃあな。」

 と日番谷が出て行ったドアを見て、小さく息を吐いた。

「………で、いいんだよな?」

 檜佐木の声に。

「ええ、バッチリよ。」

 松本が笑い。

ちゃんも日番谷くんも、恥かしがって自分で動けないから。 これで上手く行ってくれるといいですね。」

 ひょこっと、松本の机の下から、雛森が顔を覗かせた。

「まったくよ。 どう見ても両思いなのにねー。」

 松本がうんうんと頷く。

 檜佐木は溜息を吐いた。

「…いくら日番谷隊長でも、を泣かせたら… 俺、一発殴りますからね。」

「いいわよ。 その時は、あたしも殴るから。」

 松本が小さく首を竦めて笑う。

「檜佐木先輩も、そろそろ妹離れしないとね。」

「うるせぇ。」









「…ったく… 余計な世話焼きやがって…」

「え?」

 日番谷の声に、が首を傾げた。

「この映画、先週で終わってるだろ。」

「え? そうなんですか?」

 驚いて目を丸くするを見て、日番谷は笑った。

「まぁ、記念に一枚ずつ持っておくのもいいだろう。」

 と、二枚の内の一枚をに差し出す。

「? 記念って、何の記念です?」

 首を傾げたの、耳元に唇を寄せる。

「俺とお前の初めてのデートの記念だよ、バーカ。」









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未来さまのリクです。

映画のチケットが二枚あって、誰と行く? との事でした。

相手の指定がありませんでしたので、檜佐木くんにしました。

日番谷祭りへのご参加ありがとうございました。



2006. 1. 19.   亜椎 深雪


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