「へっくしゅんっ!」 大きなクシャミの音。 雛森が眉を寄せた。 「もぅ… 絶対安静だからね!」 と、声を上げる。 熱の為朦朧としている意識の中で、日番谷は小さく頷いた。 護廷十三隊に入隊した後。 小さな体に、鞭を打って懸命に努めているのだろう。 日番谷は時折、このように体調を崩して寝込む事がある。 が。 今回ばかりは、無理が祟ったのが理由ではない。 「も〜! 何がどうなったら、雪に埋もれるの?」 雛森の声ももっともだ。 事の始まりは、昨日の事。 『きゃっきゃっ!』 尸魂界は一面白銀の世界だった。 今冬初めて、大雪が降り積もったのだ。 『行くぞ、やちる! 斑目をやっつけろ!』 十一番隊に遊びに行き、そのまま雪合戦になだれ込んだ。 そこまでは、いつも通りの何気ない風景。 『えいっ!』 やちるが作った雪玉… いや、雪玉と呼ぶには程遠い、大きな雪の塊。 それが一角目がけて飛んで行った。 『へ?』 さすがの一角も、その大きなには目を見張った。 『どわっ!』 間一髪、避けたは良いが。 目標を失った大きな雪玉はそのまま、飛んで行き… 『…ん?』 ズドン 『うわっ!』 隊舎に向かおうと歩いていた日番谷に、不運にも命中したのだ。 そこまでは、問題はなかったのだ。 ただ。 『…なっ… 何だ…!?』 不運と言うものは続く訳で。 立ち上がろうとした日番谷の上に。 ザバァッ 木の枝に積もっていた雪が、無常にも降り注いだのだ。 おそらくは、日番谷がひっくり返った衝撃の為だろうと思われる。 「…すまない… まさか、人が通るとは思っていなかった…」 は肩を落とした。 「本当よ、ちゃん! 日番谷くんだから霊圧で見つけられたけど、他の人だったらそのまま凍死してたかも知れないんだからね!」 「いや、全くだ… 返す言葉もない…」 は、子供と女の子には絶対に手を上げない。 雛森の言葉に、ただ謝るその姿は、他では見ることが出来ないだろう。 雛森は小さく息を吐いた。 「日番谷くん、台所借りるよ?」 と、腰を上げる。 「? 何を作るのだ、雛森?」 が首を傾げる。 「玉子酒。 風邪にはそれが効くって言うでしょ。」 「私も手伝うよ。」 揃って、台所へ消える。 しばらくして。 「………」 日番谷は目を開けた。 まだぼーっとする。 (…ノドが渇いた………) 危ない足取りで、水を飲もうと台所に… ガシャンッ 何かが割れた音。 「…あ…?」 熱の為の幻聴かと思われたが、それにしてはハッキリ聞こえたので、日番谷は眉を寄せた。 (何だ…?) 台所が、異様に騒がしい。 「雛森っ…! 落ち着け…!」 の声。 「何よぉ〜!? アタシが悪いのぉ?」 続いたのは、雛森の声。 台所を覗き込んで、日番谷は言葉を失った。 酒の匂いが立ち込める、台所。 割れたコップの破片は散らかったままで。 さらに、雛森はぽろぽろと涙を零している。 「…何、やってんだ? お前等?」 日番谷の声。 「シ〜ロ〜ちゃん〜っ! 寝てなきゃダメでしょ〜! 熱があるのにぃ… 死んじゃったらどうするのよぉ〜…」 雛森はそんな事を言いながら、日番谷に飛びついた。 「へっ、うわっ!」 突然飛びつかれて、更に熱も手伝って、日番谷はそのままひっくり返った。 「イテテテ… な…?」 日番谷は眉を寄せた。 鼻に付くのは、酒の匂い。 「…… 真昼間っから飲んでてたのか?」 雛森は、完全に酔っ払っている。 「違う。 玉子酒を作っていたのだ。 味見と称して少し飲んだだけだ。」 「少し?」 酒の瓶は半分程開いている。 「…いや、私と雛森との味覚に差異があってな… 幾度か酒を足しながら作った結果………」 雛森が酔っ払ってしまったのだろう。 日番谷は溜息を吐いた。 「シロちゃん〜…」 雛森はぎゅっと、日番谷に引っ付いたままだ。 「さぁ〜、お布団に行きましょうねー。 アタシが、シロちゃんを温めてあげるv」 突然すぎるその声に、日番谷も、も耳を疑った。 「小さい時、熱を出したらお母さんが一緒に寝てくれたでしょ? だから、アタシが一緒に寝てあげるv」 「お、おい、雛森…っ…」 「何よぉ、"雛森"って〜… "桃"でいいでしょ〜…」 雛森は小さく頬を膨らませた。 「どうしてちゃんは""なのに、アタシは"雛森"なのよぉ〜…」 は目をぱちくりさせた。 なんと言うか、名前を呼ばれてた事に対して、雛森がヤキモチを妬いているなんて思いもしなかったのだ。 「雛森、日番谷が困っているぞ? さ、起きて…」 差しのべた手は。 パシッ 振り払われた。 突然すぎる行動に、は目を疑った。 「ダーメー! ちゃんには朽木隊長がいるんだからぁ、シロちゃんはあげないの!」 そんな事を言いながら、ぎゅーっと日番谷を抱き締める雛森。 本心では、幼なじみである日番谷を取られたと、そう言う風に思いヤキモチしていたのだろう。 「こら、雛森っ…! 酔っ払ってんじゃねえっ!」 日番谷は必死にその腕から逃げようとするが、熱を持った体は素直に言う事を聞いてくれない。 「………」 手を振り払われた事と、雛森がそんな風に思っていた事が少しショックで… 加えて、あげるだのあげないだの言われて… なんだろう、少し……… ムカツク。 何て、うっとおしい酔っ払い方だろう。 普段なら寛大に流せるのだが、にも少し酒が入っている。 「コラ…っ、雛森…! っ… オイ、桃!」 悪気がないとわかっていても、ムカツクものはムカツクのだ。 酔っ払ったまま、日番谷に引っ付いている雛森の背後に立ち。 「ん…? …」 首を傾げる日番谷に構わず。 トンッ 雛森の首筋を突いた。 その瞬間、雛森の体は力なく崩れた。 「!? おい、桃…」 首を傾げる日番谷の体から、雛森を引き剥がす。 「…何したんだ…?」 「…少し、眠っていてもらおうと思ったのだ。 心配しなくても、お前の幼なじみに乱暴などせぬ。」 そのまま、雛森を抱えた。 「五番隊まで届けて来る! その後また来るから、大人しく寝ていろ! いいな!」 言うや否や、はその場から姿を消した。 めちゃくちゃの台所を見回して、日番谷は小さく息を吐いた。 ふと、首を傾げる。 「のヤツ… 何怒ってんだ…?」 +-----------------------------------------------+ ども、亜椎深雪です。 綾乃さまのリクです。 連載ヒロインで、ヒロイン vs 雛森 。 ヒロイン vs 雛森 …? 正直に言います。 このリク、面白かったです。(笑) 色々考えていたので遅くなりましたが、こんな感じになりました。 小さな頃から何でも知っている幼なじみと言う関係に、少し妬いてみました。 雛森ちゃんは雛森ちゃんで、自分よりもシロちゃんと親しいヒロインに嫉妬してます。 楽しいリクを、ありがとうございました。 2006. 2. 6. 亜椎 深雪 |