惚れた弱み


「あん?」

 日番谷がわずかに眉を寄せた。

 目の前につき付けられたのは…

『瀞霊廷・公園通り南!! "甘味処・あやめ" オープン!!』

 の、チラシ。

「…で?」

 目の前の少女が次に何と言うか。

 想像出来たが、一応聞いてみる。

 眉を寄せる日番谷に、はにぃっと笑った。

「出掛けよう!」

 日番谷の予定を聞くより先に、そう言う。

 いつもながらのその身勝手さに、軽い疲れを覚えた。

「あのな、。 俺は、明日から任務で4日ほど出掛けるんだ。 その前に片付けねえといけない書類が山ほど…」

「出掛けるのはお前の都合だ。 私には関係ないだろう。」

 にこりと微笑まれて。

 日番谷は、もう何を言っても無駄だと言う事を悟った。

(お前が出掛けたいのは、お前の都合だろ………)

 日番谷は溜息を吐いた。

 目の前の少女を、じっと見据える。

 艶やかな髪に、黒曜石の瞳。

「あ、松本! おはよう!」

 その声は歌うように優美で…

「昨日、お前に言われた通りにしたぞ! 白哉のヤツ、驚いていたが物凄く喜んだ!」

 白哉にどっきりでも仕掛けたのだろうか。

「ね、言ったでしょう。 良かったわね、。」

「うむ。 ありがとう。」

 くるくると回る表情も、見ていて飽きない。

「………」

 この少女が前よりも輝いて見えるのはきっと。

 本当の自由を手に入れたから。

 今のを縛るものは、尸魂界にはない。

「?」

 穴が開くほどじっと見据えられて、は目をぱちくりさせた。

「何だ、日番谷? 私の顔に何か付いているか?」

 にそう言われて、日番谷は我に返った。

 顔を覗き込まれて、一歩退く。

 顔が熱を持ちそうになるのを、必死に堪える。

「…前髪、変な癖付いてるぜ。」

 突然の声に、は目をぱちくりさせた。

「えっ…? あ…!」

 慌てて日番谷から離れて、小さな手で前髪を隠した。

「ま、松本〜っ、櫛を貸してくれ〜!」

 パタパタと、松本の方へ駆けて行く。

 その背を見つめて、日番谷は小さく息を吐いた。

 思ったより、書類も残ってない。

(………仕方ねえから、付き合ってやるか。)

 日番谷は、に甘い。

 自他ともに認める事実である。

 これも、惚れた弱みと言うヤツだろう。

 腰を上げる。

ー! 前髪直したら出掛けるぞ!」

 公園通り南と言えば、下町情景で有名である。

「ハシヤのせんべえ、今日はお前が奢れよ!」

 声を投げた。









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澪さまより、リクエスト頂きました。

連載ドリームのヒロインで、ヒロインからのお誘いで下町に出掛ける。 との事でした。

消化まで時間がかかってすみません。

リクエストありがとうございました。



2006. 2. 17.   亜椎 深雪


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