「白哉はいるかー?」 バーンと勢いよく六番隊の隊長室へ踏み入る。 当然ながら事前の断りや、ノックなどはしない。 こんな行動が許される者は、尸魂界広しと言えど一人しかいない。 「…何用だ、?」 書類から目を放す事もなく、白哉が訊ねる。 机いっぱいに書類が重ねられており、白哉はとても忙しそうだ。 だが、にそんな事は関係ない。 「クリーム白玉あんみつが食べたい! 出かけよう!」 「ならぬ。 仕事中だ。」 少しも悩む節はなく、0.2秒で玉砕。 はわずかに眉を寄せたが、それでも諦めず白哉に食ってかかった。 書類に目を通す白哉の背後に回り込み、その髪をいじる。 「…三つ編。」 白哉の髪を三つ編したり。 「…お団子。」 無理やりまとめてお団子にしたり… あの朽木白哉が、好き放題に遊ばれている。 他に誰かその場にいたら、腹を抱えて大笑いしているだろう。 だが、白哉は眉一つ動かさず、無視を決め込んでいる。 少し、淋しい。 「なぁ、白哉…」 「何だ?」 髪をいじるのに飽きたのか、毛先をくるくると指でいじって遊びながら、が言う。 「新しい櫛が欲しい。 一緒に出かけよう。 お前が見立てて買ってくれ。」 白哉が小さく息を吐いた。 「…そうまでして私と出かけたい理由は何だ? 本当の目的を申してみよ。」 「やれやれ… バレていたか…」 はぽりぽりと頭を掻いた。 「…夏祭りがあるんだ。」 いつもは身長差で背伸びしていても届かない白哉の髪を撫でながら、は口を利いた。 「お前と… 花火が見たい… だから、出かけよう。」 軽く袖を引くが、白哉は動かない。 「花火を見に行こう、白哉。」 「…まだ業務が残っている。」 白哉の声に、はぷぅと頬を膨らませた。 「相変わらず頭の固い奴だな… もうよい! お前は二度と誘わぬ!」 白哉が息を吐いた。 「行かぬとは言っておらぬだろう。 本日の業務を終えるまで待て。」 書類に目を走らせながら、そう言った。 希望が見えて、が瞳を輝かせた。 「いつ終わるのだ?」 嬉しそうにそう言いながら、白哉の肩を急かすようにぽんぽんと叩いた。 「急げば一刻とかからぬだろう。 邪魔をせずに、大人しく待て。」 白哉の声に、が眉を寄せた。 「ならぬ! それでは花火が終わってしまう!」 が首を振って訴えるが、白哉は何も言わず書類にペンを走らせていた。 ぷぅ。 が頬を膨らませた。 「もういい! 日番谷達と行く!」 隊長室から出て行こうとドアの方に向かうその手を、慌てて取る。 「待て、。 それは許さぬ。」 コンコン。 ノックの音。 「…恋次か。 入れ。」 白哉の声の直後、ドアが開いて恋次が顔を覗かせた。 「…失礼します。 隊長、書類を持って来ました。」 「ご苦労。 そこに置け。」 白哉に指定された場所に書類を置いて、恋次がぽりぽりと頭を掻いた。 「…あの、何もめてるんすか? の声、外まで響いてますよ…」 入り辛い雰囲気を悟ってしばらく外で待っていたのだが、別の方向に話が反れて… 話がまとまるのを待っていたら、一生かかっても入れないと思いノックをしたのだ。 (いい感じになるかと思ったら、またいつもの調子… 何やってんだよ、もう…) 恋次から見れば、白哉とは実に微笑ましく、また実にじれったい。 キラーン☆ の瞳が輝いた。 「阿散井! 夏祭りに出かけぬか?」 「ならん。」 恋次が答えるより先に、白哉が口を挟んだ。 「では、一人で行けと言うのか!?」 が白哉を睨み上げた。 一触即発の空気が流れたかと思いきや。 「お前は、仕事と私と、どちらが大切なんだ?」 突然のの爆弾発言。 「ぷっ…」 たまらず、恋次が拭き出した。 「くっくっくっく… はははっ!」 突然声を上げた笑い出した恋次に、が首を傾げる。 「な、何だ、阿散井…?」 白哉も不思議そうに首を傾げている。 「いや、なんか……… 新婚夫婦の痴話喧嘩みたいっすね。」 恋次の突然の発言に、と白哉が目をぱちくりさせる。 「邪魔しちゃ悪いんで、俺行きます。 どーもお疲れさまっす!」 「あ、コラ、阿散井…!」 の声は、閉じた扉に遮られて恋次には届かなかった。 「…何が痴話喧嘩だ、バカ者… /// 」 眉を寄せて頬を赤くする。 白哉がその頬を、そっと撫でる。 「…何故今日に限って、執拗に私を誘う? 何かあったのか?」 恋次の爆弾発言にもまったく動じた様子のない白哉に、は軽く疲れを覚えた。 一々真に受けて照れている自分がバカみたいだ。 「何もない。 ただ…」 が真っ直ぐに白哉を見据えた。 「お前と花火を見たことがなかったから… 折角なら、お前と行きたいと思ったのだ…」 ぽんと、白哉がの頭を撫でた。 「…行くぞ。」 突然の言葉に、が目をぱちくりさせる。 「え?」 「甘味処と雑貨店、夏祭り… 他にどこか行きたい所はあるか?」 驚くを他所に、ドアに足を向けて進む白哉。 「いきなりどうした? あの書類はどうするのだ?」 「明日片付ければ良い。 どうした、 行かぬのか?」 ドアの前で、白哉が振り返った。 はじめはキョトンとしていたが、やがてにこりと笑った。 「もちろん行く! とことん付き合ってもらうぞ!」 白哉の裾を握って、並んで隊長室を出た。 先程と打って変わって、室内は一気に静寂に包まれた。 +--------------------------------------------------------+ 神崎 栞様のリクです。 お相手は朽木白哉で、連載ドリーム I wish ... のヒロイン。 『仕事に終われる白哉、ヒロイン隊長室に勝手に入室。 色々ちょっかいを出す。(何をされてもめげない白哉さん。/笑) ほのぼのな感じの中、恋次が書類を出しに来て『仲いいですね。』的発言を。 恋次退室後、甘々な雰囲気に。』 実に細かいリクでした。 『何をされてもめげない白哉さん。』 ってリクを見たとき、思わず吹き出してしまいました。(笑) とても楽しく書かせて頂きました。 『夏休み企画・2005』へのご参加、ありがとうございました。 2005. 8. 27. 亜椎 深雪 |