花火



(ねえ、アレって…)

(ヤダ、何あの子!?)

(知らないの? あの子は…)

 通り過ぎる死神たちが皆振り返り足を止める。

「えぇっ!? 婚約者ぁ!?」

 突然の叫び声に、が顔を上げた。

「んー?」

 首を傾げて辺りを見回す。

「…気にせずともよい。 言わせておけ。」

 瀞霊廷の繁華街の一角にある、甘味処。

 そこにと白哉の姿があった。

 白哉が本日非番のため、二人はいつもの死覇装ではない。

 白哉は濃紺、は薄い橙色の着物を身に纏っていた。

「ご注文はお決まりですか?」

 店員がメニューを覗き込んでいるに訊ねると。

「上から順に持って来てくれ。」

 白哉が口を挟んだ。

「は? 全部…ですか?」

 店員が目をぱちくりさせる。

「コラ。 私を太らせる気か。」

 が軽く白哉を睨んだ。

「第一、そんなに食えぬ。 無駄に浪費するな。」

 が店員に視線を移した。

「クリーム白玉あんみつを一つ頂こう。 白哉はどうするのだ?」

「私は結構だ。 甘い物は好まぬ。」

「あと、茶を二つ貰えるか。」

 がにこりと微笑んだ。

「は、はい、只今… /// 」

 女性店員が思わず頬を染めてしまうほど、その笑顔は愛らしい。

 白哉がじぃっと深雪を見る。

 薄い橙の生地に、金糸で刺繍の施された着物。

 綺麗に結い上げられた漆黒の艶やかな髪には、煌びやかな細工の髪飾り。

 更に、唇に薄く紅を引いている。

「やはり、お前にはそのような格好が良く似合う。」

 細く笑った白哉の声に、が少し眉を寄せた。

「…どうも苦手だ。 淑やかに着飾るのも気疲れする。」

 が完全に言い終えるより先に。

「あー! 朽木さんだ!」

 元気な声が響いた。

 が振り返る。

「あ、ほんとだ。 私服だと雰囲気違いますね、隊長。」

 更木とその背に乗ったやちる、そしてその後ろには一角と弓親の姿も見える。

 やちるがぴょんっと、更木の背から飛び降りた。

 ぷぅと頬を膨らませながら、白哉を睨み上げる。

「朽木さん! 誰? この人!」

 と、深雪を指差した。

がいるのに、どうしてこの人とデートしてるの! あたし怒るよ… って、あれ? !?」

 驚くやちるに、が首を竦めた。

 やちるが目をぱちくりさせる。

「わー! すごくキレイ!! ね、キレイだよね!!」

 振り返って、同意を求める。

「フン… 馬子にも衣装ってヤツか…」

 更木が意地悪そうに笑った。

「剣ちゃん、照れてないでちゃんと褒めてあげなよ。」

 やちるが頬を膨らませる。

「う… 美しい…」

 辛うじて弓親がそう呟くが、一角は言葉すら出ないようだ。

「どうした、斑目? 似合わぬのなら、はっきりとそう申せ。」

 が首を傾げる。

「べ… つに、似合わねえとは言ってねえだろ… /// 」

 頬を染めて視線を泳がせる一角を。

「純情キャラぶってんじゃないよ、豆電球!」

 バシッとやちるが殴った。

「いてっ! てめえこの野郎!」

 一角が飛び出すより先に、やちるが駆け出した。

「じゃあね、! デート楽しんで!」

「こら、待ちやがれ!」

 一角がやちるを追って飛び出す。

「やれやれ… 追うか。 …おい、。」

 更木がを見据えて続ける。

「十一番隊に来る時は、そんな格好で来るなよ。 じゃねえと、何があっても保障出来ねえからな。」

「ん…?」

 首を傾げるに細く笑って、更木が二人の後を追った。

「美しい者達よ。」

 弓親がさらっと髪をかき上げる。

「優雅で美しい一日を過ごしたまえ。 では…」

 三人を追って、弓親が駆け出した。

 が息を吐いた。

「十一番隊は相変わらずだな…」

 ちらっと、白哉を見る。

(デート…か…)

「どうした、?」

 首を傾げる白哉に、は小さく頭を振った。

「………何でもない。 /// 」







 甘味処に続いて、二人が向かった先は書店。

「少し待っていろ。 すぐ戻る。」

 を残して、白哉は書店の奥へと向かった。

(…何の本を買うのだろう?)

「そら、エッチな本に決まっとるやんかァ。」

「きゃあ…!」

 突然耳元で囁かれて、が飛び上がった。

「い、市丸! 脅かすな、バカ者!」

 振り返ると同時に、怒鳴る。

「ハハッ。 そらすんませんなぁ。」

 の声に少しも悪びれた様子もなく、市丸が首を竦めた。

「今日は随分可愛らしいなぁ。」

 しげしげとを見回して続ける。

「ボクのためにおめかししてくれたんや? いやぁ、嬉しいなァ♪」

「別にお前の為ではな… いっ!?」

 の言葉も聞く耳持たず、市丸は突然を抱き上げた。

「さ、ちゃん♥ どこに行こか?」

「放せ! どこへも…」

「どこにも行かねーよ。」

 突然の声に、が振り返った。

「日番谷…!」

 を見て軽く首を竦めて、日番谷が外に向かって声を投げる。

「オーイ、吉良! 市丸はここにいるぞ!」

「あぁ! あかん…」

 市丸が逃げようとするが、店の入り口には既に吉良の姿がある。

「み、見つけましたよ…」

 吉良が、市丸を睨んだ。

「今日中に片付けないといけない書類がどれだけあるかわかっているんですか!? 頼みますよ、市丸隊長!」

「イヅル〜、カンニンやァ………」

 吉良に引き摺られるようにして、市丸は去って行った。

「…吉良は相変わらず大変みたいだな…」

 市丸からやっと解放されて、が小さく息を吐いた。

「ま、市丸相手じゃ仕方ねえだろうな。」

 日番谷が、じぃっとを見据えた。

 無遠慮に見回されて、がわずかに眉を寄せる。

「な、何だ? 似合わぬならそう申せ。」

「いや、別に似合わねえって訳じゃ…」

 ぽりぽりと頭を掻いて、日番谷が言葉を濁す。

「あの、よ… 花火、見に行かねえか?」

「花火??」

 日番谷の声に、が首を傾げた。

「ああ。 今夜だろ? 技術開発局の奴等が花火を打ち上げるの…」

「…技術開発局…」

 が言葉を飲み込んだ。

 夏の終わりを告げるように、毎年花火を打ち上げるのは。

『きっと喜んでくれると思いましたよ。 いやー、アタシってばさんを笑わせる天才ですねー♥』

 防人一族が襲われて、しばらく塞ぎがちだったを喜ばせる為に、浦原が始めた物だった。

 それが、こう言った形で伝統として残っている。

 何故だろう。

 心に、隙間風が吹いたような、そんな気分だ。

 日番谷が眉を寄せた。

「おい、どーした? 大丈夫か?」

 日番谷が完全に言い終える前に、ぽんと肩を叩かれた。

 が振り返る。

「白哉…」

 突然その場に現れた白哉に、日番谷が眉を寄せる。

「…随分めかし込んでると思ったら、なるほど。 そう言う訳か…」

 くるっと、踵を返した。

「? 日番谷? 花火を見に行くのではなかったのか?」

 首を傾げるに、背中越しに声を投げる。

「やっぱりパス。 まだ仕事が残ってんだ。 朽木と行って来いよ。」

 言い終えて、溜息が零れる。

(今日は邪魔しに来ねえと思ったら、朽木とデートか… クソ!)

 苦々しく舌打ちをするが。

(………)

 ちゃんとお洒落をしたを見れたのだ。

(…ま、得したな。)

 ぽりぽりと、頭を掻いた。

 日番谷の背中を見送って、が白哉に視線を移す。

「用事は済んだのか?」

「ああ。 待たせたな。」

 白哉が続ける。

「行くぞ。」

「? どこへ…?」

 首を傾げるに、白哉が言う。

「見たいのだろう… 花火。 急がぬと始まって…」

ヒュー ドォン

 突然響きだした音に、は弾けたように空を見上げた。

「始まってしまったようだな…」

 白哉も倣うように、空を見上げた。

 夜空に咲いては散って行く、大輪の花。

「中々見事だな…」

 感心したように白哉が呟く。

 が、わずかに目を細めた。

 一つの花火が散って、その次の花火が打ち上がるまで、少し間がある。

 その瞬間、何とも言えない虚しさに襲われるような、そんな気分になる。

 綺麗だけど…

「…何故だろう、少し… 淋しくなる………」

 かすかに揺れた黒曜石の瞳。

「………」

 そっと、白哉がの小さな手を握った。

「白哉…」

 が目を丸くして白哉を見上げた。

 打ちあがる花火。

 その輝きのために、その表情にはわずかに影が落ちている。

「私は… どこへも行かぬ。」

 そう告げる声は優しくて、その瞳は確かに自分を見て微笑んでいた。

 ぎゅっと、少し強く手を握り返した。

「…ありがとう。」

 夏の終わりを告げるような花火。

 その中で、少し…

 素直になれた気がした。









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みか 様のリクエストです。

連載ドリーム 『 I wish ... 』 のヒロインで、お相手は白哉。

『白哉とデート。 更木や市丸、日番谷などがからかったり、ちょっかい出したりするが、最後はラブラブで。』

市丸の話し方が苦手です… どなたか教えて下さい…

連載ドリームの白哉が好きだとの声を、いくつか頂いています。

嬉しいです。 これからも、頑張ります。

『夏休み企画・2005』へのご参加ありがとうございました。



2005. 9. 2.   亜椎 深雪


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