白哉さんの受難



「邪魔するぞー、白哉はいるか?」

 バーンと勢いよく、六番隊の隊長室のドアが開いた。

 ノックもせずに、白哉の部屋に入れる者は尸魂界にただ一人しかいない。

 丁度、書類を提出に来ていた恋次が振り返った。

「おーっす、。 何か用………」

 恋次が言葉を飲み込んだ。

 突然の副官の様子に、白哉が書類から視線を上げた。

「恋次? どうかしたのか…?」

 白哉でさえ、思わず言葉を飲み込んだ。

 二人の視線の先には、がいる。

 ただ、その格好はいつもと違い。

 十番隊の松本のように、死覇装を着崩している。

 つまり、大きく胸元を開けた格好。

「……………」

 白哉は思わず頭を抱えた。

「…その姿はどうした?」

 心なしか、少し動揺した声。

「コレか? 松本のマネをしたのだ。 似合うか?」

「………」

 明るい声でがそう言う物だから、白哉は頭を抱えるしかない。

「恋次… 見たな…?」

 白哉の声に、恋次が頷く。

「死覇装の上からじゃわかねえけど、って意外とあるんすね… あ…」

 慌てて口を塞ぐが、恋次の声はしっかり白哉の耳に届いていた。

「そうか… では、今見たものを忘れさせてやろう…」

 白哉の声は冷たい。

 恋次の背中に、冷や汗が流れた。

「さ、三番隊に書類届けて来ます!!」

 白哉の許可も待たずに、隊長室を飛び出す。

「きゃぁっ!」

 恋次とぶつかって、がその場に尻餅を付いた。

「くそぅ、変な奴だな…」

 恋次が何を慌てているのか全くわかっていないが、頬を膨らませた。

 机から腰を上げ、白哉が手を差し伸べる。

、ここへ来る前に誰と会った?」

 白哉の声に、が小さく首を傾げながら答える。

「松本だろう… それから、藍染、雛森、京楽、市丸、更木、やちる、斑目… あ、それと日番谷だ。」

「そうか…」

 後で殺しに行こうと、心に決める。

「日番谷は赤くなって俯いたきり何も言わなかったが、他は似合うと褒めてくれたぞ。」

 がわずかに目を伏せた。

「白哉は… 嫌いみたいだな… 機嫌が悪い。」

 の声に、白哉が溜息を吐いた。

「嫌いだから機嫌が悪いのではない…」

 を真っ直ぐに見据えて、着崩した死覇装を直す。

「婚約者である私の前以外で、必要以上に肌を晒すな。」

「松本が着付けてくれたんだ。 男はこう言う格好の方が喜ぶと言っていた。」

 首を傾げて自分を見上げるに、何度目かわからない溜息が零れる。

「そのような格好をせずとも、お前が側にいるだけで私は嬉しい。 …」

 さらっとの髪を撫でて、白哉が微笑んだ。

 の前以外では、見せない表情だ。

「し、失礼! 邪魔したな! /// 」

 は真っ赤になって、隊長室から飛び出した。

 いいムードになった途端一人残されて、白哉は溜息を吐いた。

 一方。

 隊長室を飛び出したは、火照った顔を冷やそうと風に当たっていた。

「ダメだ… どうも慣れぬ…」

 二人で時を過ごしたり、髪を撫でられたり、手を繋がれたり…

 初期に比べ、大分慣れたつもりだが。

 微笑まれると、心臓が止まりそうになる。

 他の者達に対して、そう言う事はない。

「やはり… 白哉が…」

 己の特別なのか。

 そう思わされた。







コンコン。

 十番隊の執務室。

「開いてるぞ。」

 日番谷の声に、ドアが開いた。

「? 朽木?」

 突然の来訪者に、日番谷が首を傾げる。

「めずらしいな。 何か用か?」

「ああ。 私事だが…」

 執務室を見回して、松本を探す。

「え?」

 目が合って、松本が首を傾げた。

 白哉は松本へ歩み寄って、口を利いた。

「随分世話になっているみたいだが… に妙な事を吹き込むのは今後控えろ。 それだけだ。」

 白哉はそれだけ言うと、十番隊の執務室から出て行った。

「………怒られちゃった。」

 ぽりぽりと頭を掻く松本。

「当たり前だ、バカ野郎。」

 軽く諫めて、日番谷が息を吐いた。

(朽木も苦労してんだろうな…)

 少し、同情を覚えた。









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りんご。 様のリクです。

連載ドリーム 『 I wish ... 』 のヒロインで、お相手は朽木白哉。

『内容はお任せします! ギャグか甘めでお願いします。』

とのリクでした。

企画物の日番谷夢・『十番隊の日常』にリンクした形になりました。

お兄様、絶対苦労してると思います。(笑)

ライバルが多いだけでなく、ヒロイン自身が鈍い子ですから。

『夏休み企画・2005』へのご参加ありがとうございました。



2005. 9. 4.   亜椎 深雪


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