そう言う所が…



 夏。

 インターハイを終えたばかりと言っても、名のある強豪校に夏休みなどない。

 翔陽高校は今、夏の強化合宿の真っ最中だった。

「よし、10分休憩だ! フットワークの練習をするから、覚悟しておけ!!」

 選手兼監督の藤真の声が飛ぶ。

「ん?」

 視界の隅に何かを捕らえて、藤真が首を傾げた。

 マネージャーの少女、が忙しそうに動き回っている。

(…アイツ、また…)

 藤真は息を吐いて、の方へ足を向けた。

「コラ、! 休憩だ! 聞こえなかったのか?」

 藤真の声に、が振り返った。

「あ、健司… でも…」

「でも、何だ?」

 藤真の声に、は少し困ったように口を利く。

「私、マネージャーだもん。 皆は休憩でも、私が休むわけにはいかないの。」

 藤真が何か言いかけたその時。

「マネージャー!! スプレーあるか?」

 高野の声だ。

「はーい!」

 藤真を無視して、薬箱片手に高野の方へ向かう。

「………」

 藤真は明らかに不機嫌だった。

「…仕方ないよ、藤真。 一生懸命なのは、のいい所だ。 褒めてやらないと…」

 ぽんと、花形が藤真の肩を叩いた。

「アイツは一人で頑張りすぎなんだよ! 花形だってわかるだろ? フラフラじゃないか!」

 噛み付くような勢いで、藤真が花形を睨み上げる。

 藤真とは幼なじみ。

 小さい頃から気の利くは、自分の事よりも他人の事を優先する節がある。

 心配もあって、半ば強制的にマネージャーに誘ったのだ。

「…ったく、のヤツ… だから、俺が見てないとダメなんだよ…」





 藤真の心配を他所に、長かった一日も終わろうとしていた。

「………」

 本日最後の仕事で、洗濯が残っている。

(疲れた〜… 皆、もっと疲れてるんだろうな…)

 ぼーっとしながら、洗濯が終わるのを待っていた。

(一日動きっぱなしだったからなー… ダメだ、眠い………)

 壁に背を預けて座っているのだが、そのままうとうとと眠ってしまいそうだ。

 は重い瞼をゆっくりと閉じた。

(ダメよ、こんな所で寝ちゃ… 風邪ひいちゃう…)

 意志とは裏腹に、疲れきった体はとても正直である。

 波のように押し寄せてくる眠気に、打ち勝つ事は難しそうだ。

(何だろう… すごく寝心地がいいような気が………)

「…洗濯終わったぞ。」

 耳元に聞こえたよく知る声に、一気に眠気が吹っ飛んだ。

 は驚いて目を丸くする。

「え? 健司…? 何で…?」

 寝心地もいいはずである。

 いつから隣に座っていたのだろう。

 藤真に寄りかかるようにして、うとうとしていたようだ。

「あっ、ごめん、あたし………」

 慌てて立ち上がろうとしたを、そのまま抱き締める。

 藤真の突然の行動に、は言葉を飲み込んだ。

「…いつも言ってるだろ。 無理するなって。」

 をたしなめるその声は、とても優しい。

「だけど…」

 何か言いかけたの言葉を遮る。

「…一生懸命なのはいいけど… 見てるこっちは心配なんだよ…」

 一度溜息で言葉を切って、躊躇いがちに続ける。

「まぁ… そう言う所が… お前のいい所なんだけどな。」

「………」

 はゆっくり息を吐いた。

「ごめん、健司…」

 ぎゅっと、藤真のTシャツを握る。

「…ありがとう。」







(お、何かいい感じじゃねーか? 俺、藤真がキスする方に賭けるぜ。)

(俺はそのまま押し倒すほうに千円賭ける!)

(…進展なしに500円…)

(お前等、見つかったらどうなるかわかってんのか…)

 上から順に。

 永野、高野、長谷川、花形…

 藤真が一人で部屋から出て行ったのに気付いて、後を付けて来たようだ。

、お前もう休め。 あとはやっておくから。」

 藤真はの頭をぽんと叩いて。

「なー、お前等?」

 大きな声でそう言った。

「「「「 ギクッ… 」」」」

「え? 誰かいるの… ? ///// 」

 首を傾げるを他所に、藤真が続ける。

「俺を相手に覗きなんて、いい度胸してるよなぁ?」

 藤真健司。

 幼なじみの少女の前では優しい顔を見せるが。

 同じ翔陽バスケ部のメンバーからすれば、まさに鬼のような男である。









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藤宮緋色 様のリクエストです。

『いつも一生懸命な(頑張りすぎなのに、自覚がなくて。 危なっかしくて気になる)ヒロインを抱き締めて…』

ヒロインは、同学年の幼なじみでバスケ部マネージャーとなりました。

まぁ… 甘めになりました。

ど、どうでしょう??

『夏休み企画・2005』へのご参加ありがとうございます。



2005. 8. 25.   亜椎 深雪


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