愛情とコンプレックス



『お前って… すげえしっかりしてるよな…』

『え?』

 どうしてこんな時に、こんな事を思い出すのだろう。

『お前… 俺がいなくても大丈夫だろ…』

『ちょっと、何言って…』

 任務で魂葬に向かった先で、昨晩のとの会話を思い出していた。

 は、俺と同期で… 昨日までは恋人だった。

 頭も良くて器用でしっかりしてて…

 そんなを見ると、いかに自分が頼りないのかを思い知らされる。

『…悪い… 俺達少し、距離を置かねーか?』

 九番隊の副隊長と言う肩書きは、俺の肩に重く圧し掛かる。

 加えて、の方がしっかりしていて仕事を任せられるのに。

 そんな声を聞いた事も、一度や二度じゃない。

 は好きだ。

 でも、付き合っていく事が俺の重荷になっている。

 だけど、別れるなんて… そこまでは考えられない。

『…本気で言ってるの? 修兵…』

 の瞳に、うっすら涙が浮かんだ。

 どうして、こんな時に思い出すのだろう。

ボタ…

(くっ…! 油断した…)

 の事を考えていて、虚が迫っていた事にも気付かないなんて…

「なめんじゃ… ねえっ…!」

 気力と気合で斬魄刀を振り上げる。

 虚は倒したが、背に受けた傷は深く、血が噴き出している。

「くそ… …!」

 どうして、こんな時に思い出すのは… 今にも泣きそうなの顔なのだろう。

 あんな表情を見たのは、たった一度きりだったのに。

(悪い… 泣かせたかった訳じゃねえんだ………)

 膝を付いた。

 器官に血が入ったのか、少し咽る。

………)

 意識が徐々に薄れて行く。









「………」

 うっすらと目を開けた。

 見覚えのある天井。

 何度か世話になった事がある、四番隊の救護室だろう。

「…目、覚めた?」

 耳に慣れた声に、言葉を飲み込んだ。

「………。」

 目を丸くして自分を見上げる檜佐木に、はにこりと微笑んだ。

「…?」

 檜佐木が目を丸くする。

「お前… 何でこんな所に…」

 いや、それよりも。

「…泣いて、たのか?」

 の目元が腫れている。

 は首を竦めた。

「怖かったの… 修兵が、目を覚まさなかったらどうしようって…」

 が続ける。

「具合はどう?」

「ああ… まだ痛むけど、大丈夫だ。」

「そう…」

 檜佐木の声に、は一度息を吐いた。

 そして。

パコーン

 気持ちのいいくらい、大きな音が響いた。

「っ〜…!!」

 突然スリッパで思い切り殴られて、檜佐木は頭を抱えた。

っ! てめえ、何すん…!!」

 激しく抗議しようとを睨み上げて、言葉を飲み込む。

 は泣きそうな表情で、じぃっと檜佐木を見据えていた。

「修兵のバカ! バカバカバカ…!」

 ぎゅっと強く握ったその拳は、小さく震えていた。

「どうして貴方が背中から斬られるの!? また何か考え事をして、油断してたんでしょう!」

 まったくその通りだ。

 図星なので何も言えない。

「私がどれだけ心配したと思ってるのよ! …バカ…!!」

 堪えきれず、の瞳から涙が零れる。

 何故だろう。

 胸が苦しくて、檜佐木は一度唇を噛んだ。

「…お前でも、取り乱して泣いたりするんだな………」

「当たり前でしょう! 修兵が… もう私を好きじゃなくても… 私は修兵が大切なの! だから心配もするし、こうやって怒るのよ!」

 いつもは、軽口を叩いて軽くあしらわれるだけ。

 がこんなに取り乱したのを見たのははじめてだった。

… っ…!」

 体を起こそうとすると、鈍い痛みに襲われる。

「ダメよ、まだ動いちゃ…」

ぎゅ…

 突然抱き締められて、は言葉を飲み込んだ。

「昨日のアレ… やっぱり取り消す… 距離を置こうってやつ。」

「修兵?」

 首を傾げるの髪を撫でて、檜佐木が続ける。

「俺… の事、どうしようもねえくらい好きみたいだ。」

 冷静で頭が良くてしっかりしてて…

 そんなには自分なんていなくてもいいんじゃないか。

 そんな事を考えたが。

「いつもの冷静なお前もいいけど… 俺のために泣いたり取り乱したりするなんて、意外と可愛い所があるじゃねえか。」

「 ………。 ///// 」

 突然の檜佐木の言葉に、は顔を真っ赤にする。

「真面目にそんな事言わないでよ。 恥かしいじゃない…」

 何でも器用にこなすに対して、軽いコンプレックスを感じた事もあったが。

 自分の一言でこんな反応をするを見て。

 これからも、側にいたいと。

 そう思った。

(たまには、怪我をするもの悪くないな…)

 口にすれば怒られるから、そんな事は言わない。









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あやの様のリクです。

『同期のヒロインで恋人。 七緒ちゃんみたいな冷静沈着の子』。

修兵くん好きです。

クールに見えて、実は熱い! カッコよさそうなイメージがあります。

カラブリを読んで、そのイメージが若干崩れそうですが。(笑)

『夏休み企画・2005』へのご参加ありがとうございました。



2005. 8. 26.   亜椎 深雪


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