書類にペンを走らせる。 いつもの事だが、その量は莫大だ。 「…で?」 日番谷が眉を寄せた。 「俺が仕事してるってのに、その側でてめえは何してやがる?」 日番谷の視線の先。 十番隊・執務室のソファには…。 「んー?」 零と書かれた張羅を羽織った、一人の少女。 が、みたらし団子を茶菓子にお茶をしていた。 「日番谷… 私は、クリーム白玉あんみつが好きだと言っただろう。」 みたらし団子に、他にあるのは草加せんべえ。 が頬を膨らませた。 「うるせえ。 てめえの為に用意したんじゃねーよ。 文句があるなら食うな。」 日番谷が、どっと疲れたように息を吐く。 「あんみつは朽木に頼めよ。 お前が言えば、たらふく食わせてくれんだろ。」 「白哉に頼んだら、二度と見たくなくなるほど用意する。 そんなには食わぬ。」 副官の松本は他の隊に書類を届けに行っている。 広い執務室に、今は二人きりだった。 零番隊を発足して、日はまだ浅い。 隊と言っても名だけで、自身は自由気ままに日を過ごしていた。 集中が切れたのだろう。 日番谷が席を立った。 「俺も休憩する。 団子まだあるんだろうな?」 と、の隣に座った。 ぱくっと、団子を口に運ぶ。 「あ! 最後の一本!」 「どんだけ食いやがったんだよ、てめえ…」 呆れたように、小さく溜息を吐く。 「日番谷、口元に団子のタレが付いてるぞ。」 「…ん…」 指で口元を拭う。 「そっちではない。 動くな。」 言うや否や。 ぺろっと、日番谷の口元をなめる。 その瞬間、日番谷の呼吸が止まった。 「ほら、とれたぞ。」 は全く気にした様子はなく、そんな日番谷を見て首を傾げてさえいる。 「? どうした、日番谷?」 「お、おおおおお お前、今…! ///// 」 真っ赤になってそう言う日番谷に、目をぱちくりさせて。 「あ… ///// 」 ようやく、自分が何をしたのか気付いたらしい。 「す、すまない…! つい、やちるといる感覚で…」 (俺が草鹿と一緒かよ…) 少なからず好意を抱いている相手に全くその気がないと言うのは、中々困った事だ。 「………」 と。 何か考えたのだろうか。 日番谷が口元だけで細く笑った。 「…」 「ん?」 自分を見据える黒曜石の瞳に徐々に近付いて、その唇に自分のそれを寄せる。 唇が触れる直前。 「ん…!」 それを阻んだのは、一枚の草加せんべえ。 (………この野郎………) 二人の間にせんべえを滑り込ませたは、眉を寄せている。 「どうした、日番谷? 暑さで理性が溶けたのか?」 無意識にとは言え、先に挑発したのはである。 日番谷が笑った。 「…そーみたいだ。」 「へ?」 予想外の声に、そしてその行動に、間抜けな悲鳴を上げてしまった。 ソファに、押し倒されている。 「コラ、日番谷…!」 日番谷らしからぬ行動に、は少し慌てて身体を起こそうとするが。 小さな身体にしっかりと押さえ付けられていて、それも難しい。 「っ…! あは! あはははは… コラ、くすぐったい…! ………いっ…!!」 首筋に吐息を感じて、始めはくすぐったかったのだが。 突然噛み付かれたかのような痛みが走った。 咄嗟に手を伸ばし、テーブルの上に置いてあった湯飲みを取り。 バシャッ まだ中身が入っていることを確認して、それを引っかけた。 咄嗟の反撃に驚いたのだろう、一瞬離れた日番谷から、体を離す。 「盛るな、バカ者! 頭を冷やせ!!」 そのまま十番隊執務室を後にした。 「ふわぁ!」 十番隊の執務室を飛び出してすぐ、人にぶつかった。 「雛森…!」 他の隊の書類を届ける最中だったのだろう、雛森だった。 勢いよくぶつかった拍子に、書類が床に散らばった。 「すまない、怪我はないか?」 「うん、大丈夫。」 にこりと笑って、雛森が続ける。 「でもめずらしいね。 ちゃんがそんなに慌ててるなんて。」 「そうか?」 首を傾げながら、書類を掻き集める。 「あれ? ちゃん…」 同じように、しゃがみこんで書類を掻き集めながら、雛森が首を傾げる。 「蚊に刺されたの? 首の所赤くなってるよ。」 「へ?」 咄嗟に首元に触れるが、別に痒みはない。 「いや… 別に痒くもないが………」 「…何やってるの?」 第三者の声。 「あ、乱菊さん!」 雛森が振り返った。 十番隊に戻る途中だったのだろう、松本乱菊がその場に鉢合わせた。 「あら???」 を見て、松本が目をぱちくりさせる。 「首… どうしたの???」 「今話してたんですよ。 蚊に刺されたのって…」 雛森の声に、松本は苦笑う。 「蚊じゃないと思うわよ…」 ゆっくりとに近付いて、耳元で囁く。 「それ… キスマークでしょ?」 は言葉を飲み込んだ。 「キ、キスマーク…?」 片手で、咄嗟に首筋を隠す。 「ち、違う! そんな事していな…! ………あ!」 「あら? 覚えがあるみたいね。」 松本が楽しそうに笑った。 先程、日番谷に噛み付かれたと思った時だろう。 それ以外に、心当たりはない。 「くそぅ…」 が眉を寄せる。 キスマークを付けたまま、白哉の許へ戻るわけには行かない。 「今晩は世話になるか…」 もちろん、指一本触れさせはしないが。 「何なら、責任とって続きをしてヤろうか?」 書類を片手に、細く笑う日番谷に。 「調子に乗るな、無礼者。」 草加せんべえを頬張りながら、がそう答えた。 +--------------------------------------------------------+ 蓮様より、リクエストを頂きました。 『甘々、微エロ。 連載ヒロイン。』 です。 ちょっと、強引な日番谷隊長も素敵♥(笑) お相手が日番谷で、連載ヒロインとなりますと、この辺りが限界… と言うか、微エロってどの辺までなんでしょう?? 夏休み企画・2005 へのご参加ありがとうございました。 2005. 8. 12. 亜椎 深雪 |