年下の男の子



「あっはっはっはっは!」

「いやー、実に興味深い。 楽しいなぁ♪」

 十番隊の執務室。

 真昼間から笑い声が絶えず、実に賑やかである。

「うるせえ! いい加減にしろ!!」

 日番谷の罵声が飛んだ。

「…ったく… 副官は仕事もせずに現世の占いなんかにはまってやがるし…」

 いつもより更に眉を寄せて、日番谷が松本から深雪へと視線を移す。

「どっかの誰かさんは、隊長のくせして仕事もしねえで遊びまわってやがるし…」

 が目をぱちくりさせて首を傾げた。

「中々苦労性だな、日番谷は。 若ハゲに気を付けろよ。」

 少しも悪びれた様子はなく、にこりと笑いながらこんな事を言うものだから。

「あっはっは! ほんと、アンタって面白いわよねー!」

 松本は更に大きな声で笑い出した。

「……………」

 頬をピクつかせながら、それでもに仕事をさせるのは無理だと悟り、大人しく業務に戻る日番谷。

「なー、日番谷は誕生日はいつだ?」

「隊長は、12月20日生まれの射手座よ。」

 答えたのは松本である。

「射手座か… 射手座の今週の運勢は…」

 パラパラと、星占いの本のページをめくる。

「………なんだ、まったく普通だな。 つまらぬ。」

 占いの結果が不服なのか、がぷぅと頬を膨らませた。

「ん?」

 気になる見出しが視界の隅に映った。

『 年下の男の子 の扱い方を 星座別に徹底解剖 ! 』

 ちらっと日番谷を見ると。

 いつものように真面目に仕事をしている。

(えーと… 射手座、射手座は…)

『射手座の男の子の傾向。』

(お、あった。 何々…)

 視線を走らせる。

『とても真面目で、いざと言う時にはとても頼りになる。 それが射手座の男の子の特徴。』

「中々当たっているな、コレ…」

「でしょー?」

 松本も一緒になって本を覗き込んでいた。

『真面目すぎて、遊びに誘っても乗ってこなかったり… 彼をゲットするのはとても難しそう…』

 続けて視線を走らせる。

『気を許した相手にはとことんオープンになるのも、射手座の男の子の特徴。 まずは、彼と急接近しましょう♥』

(急接近って………)

 別にそんなつもりはないが…

『いきなり名前やニックネームで呼んでみて。 びっくりしたり少しでも照れたりしたら、脈ありよ♥』

「………」

 が言葉を飲み込んだ。

(何よ、やりなさいよ。)

 松本が肘で小突く。

(わ、私は別に、日番谷と色恋関係になるつもりは…)

(楽しそうだからいいじゃない。 それに、アタシがやったら、隊長怒るでしょ。)

 がぽりぽりと、困ったように頭を掻いた。

(アンタ、見たくないの? びっくりしたり、照れたりする隊長を?)

 そう言われれば、興味がある。

 ちらっと、日番谷を見た。

「ふぅ… 」

 ペンを置いて、座ったまま背筋を伸ばす。

「俺は休憩に入る。 松本はさっさとこの書類を十三番隊に届けて来い。」

「はーい、行って来まーす。」

 日番谷から書類の束を受け取る。

(隊長の反応教えてね♥)

 と、にウィンクして、十番隊の執務室を出た。

 お茶を入れようと席を立つ日番谷。

 どうした物かと悩んでいるの目の前に、湯飲みが差し出された。

「お茶。 ついでで入れてやったけど、いらねーか?」

 日番谷から湯飲みを受け取って、は細く笑った。

「ありがとう… 冬獅郎…」

 日番谷の呼吸が止まった。

 ズルッと、その手から湯飲みが落ちる。

「っと! コラ、気を付けろ。」

 間一髪、その湯飲みを受け止めて、が日番谷を見据えた。

 日番谷はと言うと、目を丸くして何か言いたそうにパクパクと口を動かしている。

 自分が予想した通りの反応を示す日番谷を見て、は細く笑った。

「何だ、冬獅郎? 私の顔に、何かついているのか?」

「て、てめえ… 何だ、いきなり… /// 」

 真っ赤になってそう言う日番谷が、可愛く見える。

 自分の周りにいた者は皆、より年上だった。

「名を呼ばれたくらいで照れるとは… 年下の男児は中々可愛い反応をするな、冬獅郎。」

 意地悪そうに笑うに、日番谷はワナワナと肩を震わせる。

(この野郎… ガキ扱いしやがって…)

 すっと、の手首を取った。

「お前から見て、年下の男ってどんな感じだ?」

 突然の日番谷の声に、は目をぱちくりさせた。

「そうだな… 強がって背伸びしたり、何も知らぬ無知な所など……… まあ、可愛い弟のようなものだな。」

 日番谷が眉を寄せた事に気付かず、は続ける。

「私は末妹だったから、自分より幼い者は皆可愛いのだ。 雛森も、やちるも… 日番谷、お前もな。」

 にこりと笑ったを、そのままソファに押し倒す。

「へ??」

 突然の日番谷の行動に、が間抜けな声を上げた。

「何も知らねえか… じゃ、色々教えてくれんだろ?」

「コラ、日番谷…!」

 じぃっとを見据えて、その小さな体を押さえつける。

「俺をからかったらどうなるか… 今から教えてやるよ。」







コンコン。

「失礼します。 五番隊の雛森です。 書類を届けに来ました。 日番谷くんはいますか?」

 二回のノックの後、ドアが開いた。

 同時に。

ダッ

 何かが雛森の脇を駆け抜けた。

「へ? えっ… ちゃん…!?」

 慌てて振り返ると、その後姿は紛れもなく

 雛森が首を傾げた。

「…ちゃん… どうしたの? あんなに慌てて…?」

「…さぁ? 少し懲りたんじゃねえか。」

 何やら意味ありげに呟いて、日番谷が細く笑った。







 乱れた死覇装を直しながら、は何やら呟いていた。

「まったく…! 盛るのは勝手だが、私を巻き込むな…!」

 その顔は、少し赤い。

「…年下と言えど… やはり男児と言う事か………」

 一対一では分が悪い事に気付いた。

 日番谷に襲われかけたのは、はじめてではない。

「次はさせぬ。 指一本触れさせぬぞ…」

 はそう心に誓うが。

 二度あることは三度ある。

 世間には、そんなことわざがある。









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茜田 壱 様のリクエストです。

『連載ドリームのヒロイン。 たまたま日番谷の事を冬獅郎と呼んでしまう。

それに気付いた日番谷が照れてしまう。 甘々で、微エロに行けたら微エロ。』

二人きりの間、どこまでされたのかはご想像にお任せします。(笑)

『夏休み企画・2005』へのご参加、ありがとうございました。



2005. 8. 28.   亜椎 深雪


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