泉沢の12番



「12番のユニフォーム。 泉沢男子バスケ部のジンクスだったんです。」

 聞いたことがある。

 ゲームの鍵を握る、プレーヤー。

 中学一年の時、藤真は12番のユニフォームで試合に出ていた。

 その時の成績は、県で準優勝。

 泉沢の歴史上、トップの成績である。

「三年前…」

 三井が躊躇いがちに口を利いた。

「あの試合… 俺見てたんだ…」

 準決勝、泉沢の相手は横田中だった。

 後半、残り4分を切った辺りだっただろう。

     『樋口…!!!』

 試合中、一人の選手が倒れた。

 12番のユニフォームだった。

 それまでは4点差で勝っていたが、キープレーヤーが抜けた泉沢は藤真一人ではどうする事も出来ず、横田中に逆転されて、トーナメントから姿を消した。

 その翌日、女子の決勝が控えていた。

 はゆっくり瞳を開けた。

「炎くん… ズルイんですよ。」

 淋しそうに笑う。

「バスケが好きだ… 私が好きだってずっと言ってたのに。」

 リングを見上げる。

「ずっと、一緒にいるって言ったのに…」

 一度、息を吐いた。

「いつも元気で、どんな時でも笑顔で… 身体が悪かったなんて、そんな風には見えなくて…。」

 瞼の裏には、三年前と変わらない樋口炎の姿。

 名前を呼ぶ声、何気ない癖、全部忘れずに覚えている。

「私は、炎くんに色々たくさんのものを貰ったのに、何もしてあげられなかった。」

ちゃん!』

「気付いてあげられなかった自分を、すごい嫌いな時期があって…」

 の顔を見れない。

 痛々しい気持ちが、声を通じて伝わってくる。

 樋口炎と言う少年への想いの大きさも。

 悔しがってもどうにもならない。

 樋口はもういない。

 の気持ち、心をしっかりと持って、逝ってしまったのだ。

ちゃんは、強いな。 ほんまエエ子や。』

「泉沢が優勝した日…」

 は続ける。

「私、炎くんが気になって試合どころじゃなかった。」

 心配で不安で、押しつぶされそうで。

「だけど、"約束"だったんです。 優勝するって。」

 交わした約束のために、試合に臨んだ。

「もうダメだって… 思った時に。」

『大丈夫や。』

「来てくれたんです。 夢かと思いました。」

 樋口が自分を見て笑ったから、本当に大丈夫だと思った。

 結果、逆転優勝。

 はベスト5・新人王に選ばれ、その目覚しい活躍はバスケ界に伝説として残ったのだ。

「泉沢の12番・樋口炎くんは、奇跡をくれたんです。」

 が振り返って、真っ直ぐに三井を見つめる。

「 Present The Game 。 みんなは私をそう呼んだけど、私のPGは炎くんでした。」

 高いリングを見上げた。

 いつも、見上げていた。

 届かないリング。

 賑やかな放課後の体育館。

 静かだった、藤真と三人での特別メニュー練習。

 毎日が同じ事の繰り返しだった。

 変わることなく続くと信じていた。



back