足跡



 三年前。

 短い休みの間に、二人で大阪を訪ねた事があった。

 あれは、夏休み。

 蝉の声を聞きながら、木々の木漏れ日の中、手を繋いで歩いていた。

「蝉がおらんのが、残念やな。」

 の心境を察していたのか、南が言った。

「南さん、アイスキャンディ。」

「この季節は、売ってないわ。 諦めや。」

 の声に、岸本が苦笑う。

 三年前。

 まだ中学生だった南と岸本に連れられて、豊玉のバスケ部を見に、忍び込んだり。

 小川でメダカを捕まえる小学生に交じって、ザリガニを取ったり。

 丘の上の高いに木に上って、アイスキャンディを食べたり。

 他愛もない昔話に、花が咲く。

「あ、そや。 さっき言ってた、お願いって何なん?」

 思い出したように、南が訪ねた。

「…公園に行きたいんです。 きっと、まだ残っているから…」

 南はがどこの事を言っているのか、すぐにわかった。

 目的地に、足を向ける。



 いつかまた、二人で来た時に掘り返そう。

 タイムカプセル。

 公園の木の下に埋めたはずだ。

 目印の木には、名前を彫った。

"樋口 炎" " "。

 それぞれ持っていた物と、お互い宛に手紙を書いて入れた。

 掘り返して出て来た小さな箱に、少し緊張しながら手を伸ばす。

「俺ら適当に時間潰してるから。 何かあったら電話せえや。」

 南なりに気を使ったのだろう。

 公園のベンチ。

 小さな箱を、恐る恐る開ける。

 二人で撮った写真。

 玩具のバスケットボール。

『南ちゃんに買うてもろたアイスキャンデーの棒も入れとこ。』

 一瞬何か思い出せずに、笑ってしまった。

『楽しみやな〜v 今度一緒に来る時は、いつになるやろな。』

 写真の中の笑顔は、瞼に焼き付いているそのままで。

「…うそつき。」

 淋しそうな声とは裏腹に、瞳は嬉しそうで。

 手紙を握る小さな手は、かすかに震えていた。

「…私の手紙も読んで。 同じ事書いてるんだよ?」

 写真の中、三年前の自分は眩しいばかりの笑顔。

―ずっと一緒にいれますように!―

 この時は、まさかあんな事になるなんて、思いもしなかった。



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