「あら?」
薬品箱を開けて、彩子が首を傾げた。 「彩ちゃん、どうかした?」 リョータが手の甲で汗を拭う。 「…湿布が切れてるわ。」 薬品箱の中をひっくり返すが、探し物は見つからない。 バスケ部2年の安田が、突き指をしたらしい。 「あるかわからないけど、職員室に行って来るわ。リョータは練習に戻って…」 「ちわーっす♪」 その声に、彩子は思わず動きを止めた。 「v 遅かったじゃない。」 と、駆け寄り様、声の主に抱き付いた。 部員達から、嫉妬のオーラが出ている。 「彩子さんっ、抱き付く必要はないじゃないっすか!」 桜木花道が抗議の声を上げるが、彩子は聞こえないふりをした。 「ゴメンナサイ。ホームルームが長引いちゃって。」 は小さく舌を出して首を竦めた。 あまりの愛らしさに彩子さん、顔が緩みきってます。 (もう…何でこんなに可愛いのかしらv) 更に強く抱き締めて、彩子は違和感に気付いた。 「何を持ってるの?」 の持っていた袋を指差して問う。 「あ、はい。」 は思い出したように、袋の中を漁りだした。 「湿布と、あとコールドスプレーです。昨日見た時に切れてたから。」 一瞬驚いた彩子だったが、次の瞬間にはに頬擦りをしていた。 「何て気が利く子なのv 偉いわ、っv」 部員達から再び、嫉妬のオーラが出ている。 「だから、抱き付く必要はないでしょう!」 無視される事がわかりきっているのに、桜木は再度抗議した。 ギャーギャー騒がしい中、三井寿は首を傾げていた。 じぃっと、騒ぎの中心にいる少女を見据える。 は確かに可愛い。 気も利くし、三井達3年の間でも噂になっている。 事実バスケ部だって、彼女が見学に来た日には練習に気合が入ったりもした。 でも。 (…可愛いだけじゃねえか………?) ま、それも大事だけど。 桜木を始め、あの流川さえもを気に掛けているのは何故なのか、三井にはわかりそうでわからない。 「ほっほっほ。」 と言う妙な笑いが微かに聞こえた。 一番最初に気付いたが、体育館入口に視線を向けて声を張り上げた。 「ちわーっす!」 の声で、部員達は振り返り続けて挨拶をする。 「「「チュ−ッス!!!」」」 一見丸い物体…失礼。 仏白髪と呼ばれている、安西監督がのそのそと歩いて来る。 「ほっほっほ。元気でよろしい。」 ぐる〜りと部員達を見回して、で視線を止めた。 「ほう…」 一瞬、眼鏡がキラリと光った気がした。 はドキッとして、見る見るうちに顔を赤く染めて行く。 「あ、あの!マネージャーとして入部しました!1年4組の、です!」 と、慌てて頭を下げる。 安西先生は眼鏡のずれを直して、をじっと見据えた。 「…足は、もういいのかね?」 穏やかで優しい声だった。 「あ、はい…」 赤面性なのか、人見知りが激しいのか、は赤くなったまま上目使いで安西先生を見上げた。 (((やっぱり可愛い!))) 部員達が骨抜きにされるの可愛らしい仕草に、安西先生はにっこりと笑った。 「よくバスケに戻る決意をしましたね。」 の肩に、ぽんと手を置く。 「おかえりなさい、君。」 眼鏡の奥に、優しい瞳が見えた。 その言葉と声に安心したのか、は大きく頷いた。 「…はい。」 柔らかな微笑を浮かべて、答えるように微笑んだ。 「親父!さんに触るんじゃねえ!」 そう言って安西先生の顎をびよ〜んと引っ張る桜木に、彩子のハリセンが炸裂した。 安西監督は練習に戻るように指示を出し、彩子が出してくれた椅子に座った。 「………」 三井の時は止まっていた。 。――― その時々不意打ちで見せる様々な表情に見惚れていたことに気付いて、三井は微かに赤くなった。 |