ブラック コーヒー



 はうっすらと目を開けた。

 体が冷たい。

(頭痛い………)

 頭に手を当てて、我に帰る。

 勢いよく身体を起こすと、頭痛が伴った。

「まだ起きちゃダメだよ、チャン。」

 聞き覚えのある声に、視線を向ける。

「………仙道さん。」

 相手が知りあいだと言う事に、少し安堵感を覚える。

 仙道はにっこりと笑った。

 の隣に、腰掛ける。

「雨の日に傘もささないで、俺が通ったから良かったけど。」

 仙道は笑顔で続けた。

「どうしてあんな所に倒れてたのかな?」

 は仙道を見上げた。

「…ネックチェーン………」

「え?」

「落ちてませんでしたか? 赤い石の付いた指輪と… あと制服のボタンは?」

 青ざめたに、仙道は優しく微笑んだ。

「首からいつも下げてたやつ?」

 が頷く。

「さぁ。 見てないな〜。 失くしちゃったの?」

 は拳を強く握った。

 唇を噛んで、涙を堪える。

「……………。」

 仙道が口を開きかけた時。

ピィー。

「あ、お湯沸いた。」

 仙道は立ち上がった。

 キッチンに入るまでその背を見送って、は視線を手元に戻した。

 擦り切れた手に、起用に絆創膏が貼られている。

 間もなく、仙道が二つのカップを手に戻って来た。

「コーヒー。 体暖まるよ。 砂糖きらしてるから、ブラックね。」

 カップと一緒に、に体温計を手渡す。

「顔色悪いよ? 神に電話しておくから、体温測ってみな。」

 仙道は何も聞こうとしなかった。

 一度の頭を撫でて、部屋を出る。

 体温計を脇に挟んで、コーヒーを一口、口に含む。

 その温かさに、涙が零れそうになった。

「………苦…」

 カップの中に、一粒の雫が落ちた。



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