Dearest



 

 一人暮らしの彼女の日課の一つに、月曜日、朝早くおきて2人分のお弁当を作ると言う事課題がある。

 一つは自分の分、もう一つはお隣の幼なじみの分だ。

 一つ作るも二つ作るも手間が一緒なので、頼まれているのだ。

 海南大付属高校バスケ部は、火・木・土 と朝練が義務付けられているにもかかわらず、神は水曜と金曜にも自主的に練習をしていた。

 クラスメイトに借りたMDを聞きながら、お弁当を作る。

     本当に大切なもの以外 全て捨ててしまえたらいいのにね 現実はただ残酷で

 綺麗な音色に合わせて鼻歌を歌う。

     そんな時いつだって 目を閉じれば 笑ってる君がいる

 料理をしながらしばらくして、は首を傾げた。

     Ah- いつか永遠の 眠りにつく日まで どうかその笑顔が 絶え間なくあるように

「っ…」

 手元が滑って、指を切ってしまった。

 一筋の血が指を伝うが、は動かない。

     人間は皆悲しいかな 忘れ行く生き物だけど

 まるでそこだけ、時が止まったようだ。

     愛すべきもののため 愛をくれるもののため できること

 は身動き一つせずに、ただ目を丸くしていた。

     Ah- 出会ったあの頃は 全てが不器用で 遠回りしたよね 傷つけあったよね

 綺麗な曲が流れる。

 しかし、の心はココになかった。

 床に血の雫が落ちる。

     Ah- いつか永遠の 眠りにつく日まで

 繰り返される音楽にゆっくりと目を閉じた。

     どうかその笑顔が 絶え間なくあるように

 穏やかでいられないの心情を知らず、デッキは止まる事なく歌を歌い続ける。

     Ah- 出会ったあの頃は 全てが不器用で

 目を閉じたまま、歌を聞く。

 曲の綺麗な、切ないバラード。―――

     遠回りしたけど たどりついたんだね



!」

 強く肩を揺すられて、は我に返った。

「あ、宗ちゃん…」

 神はほっと胸を撫で下ろした。

「大丈夫? 調子でも悪いの?」

 切れた指にバンドエイドを張りながら、訊ねる。

「…ううん、何でもない。」

 は首を横に振った。

「あ、お弁当は出来てるよ。 大丈夫。」

 神にお弁当を渡して、はにっこりと笑った。

 神はの頭を撫でた。

「無理しちゃダメだからね。 気を付けるんだよ。」

 神はお弁当をカバンに入れながら、に言った。

「じゃ、俺は行くけど、本当に大丈夫? 帰りむかえに行こうか?」

 は再度首を振った。

「大丈夫、ぼ〜っとしてただけだから。」

 神を見送って、MDデッキに近寄る。

 まだ歌が流れているそれを止めて、MDを出した。

 曲名が書かれたラベルを見る。

「…Dearest 。」

 店などでよくかかっているが、ちゃんと聞いたのは初めてだった。

「……………。」

 は大きく息を吐いた。

「…行って来ます。」

 返事の返ってこない部屋に、一言だけそう言った。



× × × × × × × × × ×



 少しづつ、ストーリーが動きます。


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