デコピン



「……………」

 見慣れない天井。

 は首を傾げた。

「おはよーさん。」

 どこか不機嫌な南の声。

 身体を起こそうとして、自由が利かない事に気付いた。

「…お前なぁ、ええ加減にせえや。」

 呆れたような岸本の声。

「…ゴメンなさい。」

 無理がたたったらしい。

 雨に打たれた身で、寒空の下大阪まで。

「…電話にも出えへんし。 行ってみたら、倒れとるし。」

 南がを見下ろす。

「あの… タイムカプセルは………?」

「持って来たわ。 心配せんでええ。」

 岸本の声に、がほっと一息吐いた。

ベシっ。

 軽くデコピン。

 睨む南に、おでこを押さえて首を竦めた。

「…ゴメンなさい。」

 すっと、の頬に触れる。

「おい、南。」

 溜息交じりの岸本の声は、軽く流された。

「? 南さん………?」

 首を傾げる、色の違う瞳。

(…色っぽいな、コイツ。)

「………泣いたん?」

 は驚いて南を見据えた。

「何で…」

 言いかけて、は言葉を飲み込んだ。

「やっぱりな。」

 南は小さく息を吐いた。

 を見据えたまま、続ける。

「泣いてもええんちゃう? そんな時もあるやろ。」

 は少し俯いた。

「優しくされると、泣きたくなるじゃないですか………」

 南が手を伸ばした。

「炎の奴がな、泣きたいのに泣けへん時、俺がこうやってやっとったんよ。」

 の頭を撫でる。

「私、ダメですね… 人に迷惑ばかりかけて………」

 少女の瞳から涙がこぼれる。

 無邪気に笑っていたあの頃からは想像できないほど、少女は小さく弱く見えた。

「今度、墓参り… 一緒に行こうな。」

 涙声でしゃくりあげていた少女は、何度も頷いた。

 南の大きな手が、長い髪を撫でていた。



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