デート



「で、ここが俺の行きつけの店。 俺に頼まれたって言えば、少し割り引いてくれるよ。」

 駅前のスポーツショプを指差して、藤真はそう言った。

「バスケ一筋ですね。 青春時代が泣きますよ?」

 揶揄るように小さく笑うに、藤真は軽く肩を竦めた。

 放課後デートと言うよりは、藤真がを案内しているようだった。

 2年の間に町並みは大きく変わっていて、は右も左もわからない。

「あれ、先輩…"バニラ"潰れちゃったんですか?」

 昔通っていた馴染みの店の場所は覚えていたらしく、は首を傾げた。

「いや、大通りの方に場所が移っただけだよ。」

 らしい台詞に、藤真は細く笑った。

「大通り? "スウィート"がある通りですか?」

 好きなデザート専門のカフェや、アイスクリームショップ等はきっちり覚えているに、藤真は感心してしまう。

 の次の言葉を聞くより先に、口を利く。

「残念だけど、潰れたのは"チェリーキャンパス"だよ。」

「え〜っ! チェリータルト好きだったのに!」

 悔しそうに唇を尖らせるが可愛くて、藤真は思わず吹き出してしまう。

 笑われたは、当然ながら面白くない。

「笑わないで下さいよ、酷いです〜!」

 恨めしそうに自分を見上げるに、ぱちっとウィンクする。

「青春を揶揄られた仕返し。」

 いぢわるにそう言う藤真に、は頬を膨らませた。

「もう知らないっ。」

 の態度があまりにも予想通りで、藤真は堪えきれず腹を抱えて笑った。

「先輩のバカ! いぢわる!」

 悔しそうに藤真の胸を殴る

「コラ、止めろって。 危ないだろ。」

 微笑ましそうに見守っていた藤真だが、杖を突いたがバランスを崩したので、慌てて転びそうになるその体を自分の方へ引き寄せた。

「…こーなるって、言いたかったんだけどな。」

 藤真は自分の腕の中に、すっぽりと収まってしまう華奢な少女を見つめた。

「大丈夫?」

 相変わらず小さいな、そんな事を思うが決して口には出さない。

「ご、ゴメンなさい…」

 上目使いで見上げて来る、恥ずかしいのか少し赤くなっている。

 藤真は小さく笑って、の髪を撫でた。

「チョコチップサンデーと、マロンシャンテリー。」

「え?」

 が驚いて藤真を見上げた。

「お詫びに奢るけど、どっちがいい?」

 はぱぁっと目を輝かせて、藤真に飛びついた。

「先輩、大好き!」

 少し悩んだ末に、大通りにある"スウィート"に決定した。

 2年ぶりの懐かしい味に、は大層ご満悦だった。




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