栄光の伝説



 彩子はベッドに座って一息ついた。

 練習が終わって帰宅。

 食事を済ませたり、汗を流したりして時計は10時を回っている。

「あの子、どこかで見た事あるのよね。」

 彩子は何気なく、本棚に納まっていたバスケ雑誌に手を伸ばした。

 既に何年前の物かわからないそれのページを、パラパラとめくる。

 例の少女の事ばかり頭に浮かぶ。

 時折り体育館に姿を見せる少女。

 他の部員ファンとは違って、"バスケ"を見に来ていると言った感じである。

「あら?」

 偶然目にしたページには、全中(冬)に付いての記事が載っていた。

「懐かしいわね。」

 当時、全く興味のなかった男バスのページに、三井率いる武石中の特集記事があった。

 次のページをめくって、彩子の手が止まった。

「あ―――っ!!」

 夜だと言うにも関わらず、彩子の声は遠くまでよく響いたと言う。



 女子バス・期待の新星☆

 夏の屈辱を、冬で!冬季、もっとも輝いた少女!

 得点王は最小!148cm37kg

 派手な見出しから始まる記事を、その場にいた宮城と三井が無言で見つめた。

「…コレ、あの子?」

 宮城リョータが記事を指して、彩子に訊ねた。

 左右の目の色が違う、写真の中の少女。

 彩子は首を縦に振った。

「バスケ界の伝説とまで言われてたわ。」

 レイアップシュートを始め、様々なアングルで写真に写っている少女は、小さいながらも堂々としており威厳を感じずにはいられない。

「嘘だろ、一試合平均得点20以上だ〜?」

 三井が信じられないと言った様子で、記事を睨んでいる。

「いいえ、本当ですよ。この決勝戦では37点取ってました。」

 内、3P15点、フリースローが6点だと、彩子が答えた。

「…チュース。」

 先客に不満があるのか、ジャージ姿で流川が不機嫌そうに入って来た。

「流川!アンタも見なさい!」

 彩子が雑誌を流川に突きつける。

「?」

 何の事だがわからずに、流川は目の前に突きつけられた雑誌に目を通した。

「泉沢の…コイツがどうかしたんすか?」

 流川はボールを片手に、ドリブルシュートを打った。

「なっ、アンタこの子わかってたの?」 と、彩子。

 彩子は3年前に流川を引き連れて、この試合を見に行っている。

「うす。」

 流川短くそう答えて、朝練を始めた。

「相変わらず、冷めたヤローだな。」

「っとに、ナマイキなヤローだ。」

 宮城に三井がそれぞれ文句を言っている。

「どうしてバスケ部に入らないのかしら?」

 彩子が残念そうに呟いた。

 二度目のシュートを入れて、流川が彩子に視線を移した。

「…知らないんすか?」

 突然声を掛けられて、彩子は首を傾げた。

「…ソイツ、その試合を最期に、バスケ止めてますよ。」

「どうして…?」

「…足、ダメにしたって聞いてます。」

 流川の言葉に、3人は顔を見合わせた。

『バスケが大好きです!!』

 彩子の手の中、写真の少女は無邪気に笑っていた。




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