校門を少し出た所で、藤真が足を止めた。 形の良い眉を顰める監督に、隣を歩いていた花形が首を傾げる。 「そんな顔しないで下さいよ。 今日はそのつもりで来たんじゃない。」 小さく首を竦めて、エリオルが藤真を見据えた。 「少しだけ、話がしたいんです。」 無遠慮に見上げてくるグレーの瞳を無碍にする事も出来ず、藤真はそんな自分の甘さに溜息を吐いた。 「…すみませんでした。」 すぐ側にあったファミレスに入りコーヒーを注文すると、エリオルが突然謝った。 小さく頭を下げるエリオルに、藤真は小さく息を吐いた。 「ボクは、自惚れていたんです。」 罰が悪いのか、エリオルが首を竦めた。 「初めて会った頃のは、人に対して怯えてました。」 エリオルが微かに俯いた。 「真っ白い壁に囲まれた病室で、窓の外ばかりを眺めいていて… そんな小さな女の子が、すごく…」 一度、ぎゅっと拳を握る。 「初めは、同情だったのかも知れません。 言葉も通じなくて、院長先生に良くしてくれと言われても、正直困っていて… 今は…」 真っ直ぐに、藤真を見据える。 「貴方達を羨ましいと思う自分がいます。 が笑う時は、決まって貴方達の話をしている時。 いつからか、嫉妬していました。」 一息吐いて続ける。 「が医者になりたいと言ったのは本当です。 ボクと結婚して、病院を継ぐのも、の祖父が望んでいる事なんです。 でも…」 言葉を続けるエリオルの手が微かに震えていた。 「は、ボクに彼の事を何も話してくれない。 の心は、まだ彼に向っている。 二年一緒にいても、それは変わらなかった。」 グレーの瞳が、かすかに揺らいだ。 藤真がぴくりと反応した。 「の痛みが、ボクにはわからない。 だから、はボクに心を開いてくれない…」 一粒の雫が、エリオルの掌に落ちた。 「お願いします、を…助けて下さい。 貴方達になら、出来るかも知れない。 ボクじゃ、ダメなんです…」 藤真は、息を吐いた。 エリオルは、自分と同じく歯痒い思いをしている。 自分では、をどうする事も出来ない。 わかっているのに、その真実さえも許せないほど、に惹かれている。 ただ、見守るだけ。 そう思っていた。 そして、これからもきっとそれは変わらない。 コーヒーを一口含んだ。 少しだけ、苦かった。 |