ファン



、紹介するね。」

 神がを見てにっこりと笑った。

「知ってるよ、バスケ部の後輩君だよね?」

 インターハイで見たと、が言った。

 清田はしばらくをじっと見つめていたがやがて、突然力強くの両手を握った。

「ヘ…? あ、あの…」

 は目をパチクリさせて清田を見つめる。

「…ちゃんっすよね?」

 清田は食い入るように、に詰め寄った。

 は目を丸くしたまま、コクコクと頷いた。

 清田はパッと目を輝かせて、大きな声で言った。

「俺! 海南大附属高校、バスケ部ゴールデンルーキーの清田信長って言います!」

「はぁ…」

 首を傾げるを見て、三井はチラッと神を見た。

 神はやれやれと肩を竦めた。

「信、の事知ってるの?」

 神の言葉に、清田はの手を握ったまま答える。

「俺、ファンなんです! ちゃんのプレイに憧れて、本格的にバスケ始めたんっスよ!」

 まさかこんな所で会えるなんて、清田はかなり興奮していた。

「オイ、お前いつまでそうしてるつもりだよ!」

 三井は耐え兼ねず、清田の手を払った。

 ようやく解放されたの両手は、赤くなっていた。

「ほら、信がバカ力で握るから。」

 神がそう言うと、清田は慌てて謝った。

 自分達海南の先輩にはともかく、初対面の女の子に謝る清田が妙に素直で、神は小さく笑った。

「私は大丈夫だよ。」

 が清田を見上げて。

「ありがとう。 ファンなんて言ってもらえて、すごく嬉しいな。」

 などと言い、少し照れて赤くなった物だから、三井は面白くない。

「おら、行くぞ! 部活に遅れる!」

 急に腕を引かれて、は三井を見上げた。

「先輩、プリクラ! 撮るって言ってくれたじゃないですか〜!」

 と、三井の手を振り払った。

 恨めしそうに自分を見上げるに、三井はわずかにたじろいだ。

「あ、プリクラか。 いいね。」

 神が呟くと、は飛びついた。

「ね! 宗ちゃん達もさ、一緒に撮ろうよ。」

 この台詞に喜んだのは清田で、慌てたのは三井だった。

「駄目だ! 昼飯食って学校に…!」

「もう行っちゃいましたよ?」

 神の指差す方では、と清田がじゃれている。

「やっぱ、全身プリクラだよな!」

「私、らくがきしたい。」

 三井はがっくりと肩を落とした。

 神に促されて、しぶしぶ2人の元へ向かう。

 せまいプリクラ機の中に、大きな男が3人…余計に狭く感じてしまう。

 フレームを決めて、は撮影スタートボタンを押した。

カシャッ。―――



 ギリギリ部活開始時間に間に合って、2人はほっと胸を撫で下ろした。

 三井は練習時間も、時折り何かを思い出したようににやけていた。

「今日のミッチー変だぞ? 何かあったのか?」

 桜木に聞かれても、三井は何でもないと答えない。

 彩子が不審がってに訊ねると、それらしき答えが物的証拠として得られた。

(三井先輩も、かわいい所あるじゃない…)

 から貰った2枚のプリクラ。

 何故か海南の神と清田が一緒に写っているが、問題はソコではない。

『今度は私、三井先輩の隣がいいです!』

 がそう言って三井の腕にしがみ付いた。

 清田がかなり羨ましがっていた事はさておき、かなり、密着して撮られた1枚。

 結局モスにも同行され、2人の時間を潰されたが、三井にとってそんな事はどうでもよかった。

『今度は、2人で撮りましょうね。』

 耳元で囁かれたの言葉が、三井の耳に繰り返し響く。

『約束ですよ。』

 の笑顔は眩しくて、まるで脳裏に焼き付いたように頭から離れなかった。



back