「うわ〜、絶景ですよ、先輩♪」 バスに揺られながらが、嬉しそうにはしゃいでいる。 「もぉ、は元気ね…」 可愛いなと思いつつ、彩子は苦笑を浮かべた。 場に漂う険悪な空気に、眉を寄せる。 『強化合宿を行います。 出来るだけ多くの選手達に声をかけますので、皆さんも参加するように。』 安西監督の一言で、3連休を利用した県下強化合宿が行われる事になった。 かなり急であったため、それぞれ全メンバーは集める事は出来なかったが。 「ほら、ジュースが零れるぞ。」 はしゃぐを優しく嗜める声。 バスの中の気温が、一度下がった。 「そうしたら、また買ってくれますか?」 がにっこり笑って訊ねる。 溜息を吐く者が1人。 「…オイ。」 海南大附属の怪物、牧紳一である。 大袈裟に溜息を吐いてみせる。 「ちゃ〜ん、俺が買ってあげるよv」 斜め後ろの座席から、仙道が顔を覗かせた。 「…仙道、恥ずかしいからヤメ。」 越野が頭を抱えた。 「。 ポッキーは?」 「あ、食べるv」 後ろに座る神からポッキーを貰って、はご機嫌だ。 「神さん! それ、俺のですよ!」 ポッキーを取られた清田が、神を恨めしそうに見つめた。 「いいじゃない。 減る物じゃないし。」 「減るっす!」 二人のやり取りを見て、が笑っている。 「はい。 先輩もどうぞ。」 自分の隣に座った、大好きな先輩にポッキーをあげる。 「ありがとう。 じゃ、貰おうかな。」 ファンの子が泣いて叫ぶような満弁の笑みを浮かべて、藤真が言った。 補助席を挟んで座った彩子は、溜息を吐いた。 一見和やかに見えるが、の隣の席を確保した(しかもからの申し出である。)藤真以外は、心底笑えていない。 それを見て、自分の隣に座っている宮城はともかく、他のメンバーがいつ、我慢できなくなるか… 「だ〜!!!」 突然叫んで立ち上がった桜木に、やっぱりと頭痛を覚える。 「テメエら、いい加減にしろ!! さんは湘北のマネージャーだぞ!!」 始めに耐えられなくなったのは、やはり桜木。 後ろの席を指差して、いきり立ったように怒鳴り付けている。 まぁ、怒りの理由はわかる。 を他校に取られ、隣に座っているのが、やはり不機嫌な三井。 補助席を挟んで反対側には、MDを聞きながらねむる流川。 となりには、顔を赤くして座っている晴子。 桜木の抗議の声を聞いて、藤真が小さく笑った。 「で、桜木は妬いてるんだ。」 逆なでするような、挑発的な言葉をさらっと言い退ける。 場の空気がさらに三度下がろうとした時。 「あ、着いたみたいですよ。」 が言った。 安西監督の知り合いが、経営していた旅館を今年いっぱいで取り壊すらしく、この時期には客足もないので、体育館も完備しているから合宿にでも使って欲しいとの事だった。 湘北高校前に朝一に待ち合わせて、バスでその民宿を目指したのだ。 海南大附属からは、牧・神・清田の三名。 翔陽からは、藤真。 陵南からは、仙道・越野の二名。 湘北からは、三井・宮城、流川・桜木の四名。 マネージャーに、彩子と、それに晴子が手伝いに来たので、計13名の参加である。 「ほら、さっさと下りなさい! 後ろがつかえるでしょ!」 彩子の一言で、桜木がしぶしぶ動く。 渋滞に引っかかる事もなく、無事に旅館に辿り着いた一行。 時刻は、9:40 。 「部屋割りはさっき決めた通りだ。 10:00 から、練習を始める。 遅れるなよ。」 さすが、牧。 早くも今合宿の、キャプテン役を務めている。 ちなみに。 流川・仙道・清田・桜木。 藤真・牧・神。 越野・三井・宮城。 で、分かれた。 「牧さぁ〜ん! 俺、牧さんと神さんと同じ部屋がいいです! 赤毛サルと流川と同じ部屋なんて絶えられないっすよ〜!」 清田が牧に縋り付くように言った。 「うるさい。 早く着替えに行け。」 牧は、他校生との交流を深めるために、わざとクジで部屋割りを決めたのだ。 「藤真さん、代わってくださいよ。 お願いします!」 牧に交わされ、次は藤真に頼む。 「文句を言うなよ。 仙道と越野も離れてるんだから。」 藤真は、即座に断った。 「ほぅ、野猿は、じぃ離れが出来てないのか。」 桜木が、馬鹿にしたように呟く。 「なんだと、てめえ!」 2泊3日のミニ合宿。 一波乱ありそうな予感を乗せて、今、始まった。 |