君に似た人



 運び込まれた一室で、はゆっくりと目を開けた。

「お、大丈夫か?」

 聞き覚えのある声に、視線を投げる。

「…清田君?」

 軽く瞬きをして、は体を起こした。

「あ、まだ寝てた方がいいって!」

「私…?」

「倒れたんだよ。 越野さんがいなかったら、頭ぶつけてたぞ。」

 清田の話を聞いて、は息を吐いた。

「迷惑かけてゴメンなさい。」

「あ、そんな事ないって。」

 はじっと清田を見詰めた。

 清田は、なんとなく落ち着かない気分になる。

「清田君、練習は?」

 の問いに、包帯の巻かれた指を見せる。

ちゃん看てろって言われたから。」

 突き指も手伝って、の側にいろと言われたのだ。

「…指、大丈夫?」

 清田は困った様子で頭を掻いた。

「藤真さんが言ってたんだけど、眠れなかったのか?」

 は少し目を丸くして、小さく息を吐いた。

「…先輩には敵わないな。」

「悩み事か? その… 何もできないけど、俺でよければ話し聞くぜ。」

 清田は付け足すように続ける。

「ほら、その…」

 照れ臭そうに頭を掻いて、言葉を捜す。

「話聞くだけでも、気持ちが少し楽になるかも知れないし…」

「えっと………」

 考え込んでいる様子のに、清田は慌てたように言う。

「あ、無理に聞こうと思ってないからな!」

 は細く笑った。

「この間、ゲームセンターで会った時の事、覚えてる?」

 は清田を見つめた。

「私、清田君に自己紹介されるの、3回目だったんだよ?」

 3年前の夏と冬、清田は同じようにに名乗っていたのだ。

「覚えててくれたのか?」

 は小さく頷いた。

「忘れないよ。 だって、…君と同じ事言ってたんだもん…」

「え?」

 何て言ったのか聞き返そうとした清田に、が言った。

「清田君ってね、私の好きだった人に… 似てるんだ。」

 は続ける。

「明るくて元気で素直で、負けず嫌いで誰よりも頑張って… 私の事、"ちゃん"って呼ぶ所も同じ………」

 が微かに震えた声で続ける。

「違うってわかってるんだけど… 思い出しちゃうんだよね…」

 の瞳が陰ったような気がして、清田は何も言えなくなった。



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