雨の音が耳に響く。

 は寝返りを打って、耳を塞いだ。

 昔から雨は苦手だった。

 広い家に一人で住んでいると、雨の音がやたら大きく聞こえる。

 "一人"だと言う事を、強調するように。

 今だってそうだ。

 雨の音がうるさくて、眠れない。

♪〜

 突然の着信音に、はびっくりして体を起こした。

 手を伸ばして、携帯を見る。

 メールだった。

 差出人は藤真で、内容はたった一言。

"大丈夫?"―――

 はいてもたってもいられなくて、ベッドから抜け出すと走り出した。

 ドアを開けた瞬間、強く抱き締められる。

「…せ、先輩ぃ。」

 泣き出しそうな声で呟いて、は藤真を抱き締めた。

「目が覚めたら雨が降っていたから、気になってたんだ。」

 藤真は優しく言って、の髪を撫でた。

「入ってもいい?」

 は何度もコクコクと頷くが、ぎゅっと抱き締めたまま藤真を放さない。

 藤真はを抱き抱えて、部屋に入った。

 ベッドに下ろして座らせてやると、しばらくしては落ち着いた。

 藤真を抱き締める力を少し弱めて、じっと見つめる。

 優しく微笑んで、藤真は口を利いた。

「眠れなかったんだろう? 電話してくれれば、すぐ来たのに。」

 は藤真を見つめたまま、躊躇いがちに口を利いた。

「あ、あの… ゴメンなさい……… 先輩、私…」

 藤真は首を振る。

「いいんだ、わかってる。」

 は納得がいかない様子で、続けた。

「よくないです! 先輩の気持ち、踏みにじってる…!」

 真剣な

 藤真はその瞳に微笑んで、細く笑った。

「"踏みにじる"って、意味知ってる?」

「…多分。」

 自信なさ気に答えて、は流されている事に気付いて話題を戻した。

「本当は、バスの中で話がしたくて… でも、皆いたし、先輩が… 普通通りだったから………」

「………ん。」

 藤真はの髪を撫でながら、聞いている。

「私、先輩の事好きです。 先輩が私を好きでいてくれて、凄く嬉しいです… でも………」

 藤真はを抱き寄せた。

 震えた小さな体は、藤真の腕の中にすっぽりと収まってしまう。

「いいよ。 わかってる…」

 その優しい声を聞いて、我慢していた涙が溢れた。

「ゴメンナサイ、ゴメンなさい… でも、私やっぱり………」

 藤真は泣きじゃくるに優しく微笑んだ。

 は溢れる涙を懸命に拭うが、涙に手が追いつかない。

「………。」

 藤真はそっと、の髪を撫でた。

「お前達二人の事は、俺が一番知っている。 だから、気にするな。」

 は藤真を見つめた。

 いつもと変わらない、優しい笑顔。

 癒されると同時に、胸が痛い。―――

「今まで通り、先輩として甘えてくれないか?」

 両手を広げた藤真に、は首を傾げた。

 藤真はにっこりと微笑んだ。

「ほら。 いつも通りって言っただろ。」

 どうして藤真は、こんなにも優しいのだろう。

 は藤真の胸の中に飛び込んだ。

 キツク抱き締めて、泣きじゃくる。

 藤真はを抱き締めながら、呟いた。

「…あの時も、こうやって泣いたよな。」

 懐かしいようなくすぐったいような気持ちになって、藤真は苦笑った。

 の中には、まだ…

 癒されない傷がそのまま残っている。

(俺じゃ、ダメなんだ…)

 しばらくすると、泣き疲れたのか、は眠ってしまった。

 小さな体を愛しそうに抱き締めて、藤真は唇を噛み締めた。

誰でもいい。―――

彼女の傷を癒してくれ。

彼女が、がまた…

心から笑えるように。



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