解散



「「「「「「「あ(りがとうございま)した!!!!!」」」」」」」

 お世話になった旅館の女将さんに、全員が一斉に頭を下げる。

「いいえ、賑やかでとっても楽しかったわ。 立て直したら、また一番に招待するわね。」

 女将さんは何度か練習を見に来ていた。

 活気のある事が、よほど嬉しかったのだろう。

 全員を乗せた事を確認して、バスは走り出した。



 来た時と席は少しだけ変わっている。

 桜木の隣に晴子、そしての隣に、清田。

 あからさまに三井が睨んだが、変に素直になれない性格のため、仕方がなかった。

 仲直りはした。

 しかし。

 出会った頃と比べ、距離がある。

 そんな気がしてならない。

 結局の事は、何も知らない。

 知りたいと思っても、の笑顔が消えてしまうのではないかと言う思いさえして、聞く事も出来ない。

 から何か話してくれるまで、待つしかないのか。

 悔しかった。

 結局は、藤真や神と、対等な立場に並ぶ事さえ、自分には許されていない。

 桜木や流川や清田、仙道等もに好意を抱いていると言うのに。

 ライバルばかりが増えて行く。

 ふと、に目をやった。

 清田と楽しそうに話し込んでいる。

 が倒れて、それ以来清田が積極的になった。

 二人きりの時に何かあったに違いないが、それが何なのかもわからない。

 悩むだけ悩んでいると、バスはいつの間にか、目的地に着いていた。



「皆さん、お疲れ様でした。 各自ゆっくり休んで、合宿の経験を生かし、今後練習に励むように。」

 安西監督が一言言って、場は解散になった。

「じゃ、ちゃんv またねv」

「お疲れ様でした!」

 に手を振る仙道を叱咤して、越野が頭を下げた。

 陵南の二人が、先に帰路に着く。

 誰がを送るのか、争うまでもない。

 神がの隣の家に住んでいるからだ。

「晴子さん! この天才が送って差し上げます!」

 晴子を連れて、桜木花道去る。

「彩ちゃん、荷物持ってあげるよv」

 彩子と宮城、二人揃って退場。

「じゃ…」

 眠いのか、短く一言だけ言って、流川は自転車に乗った。

「…お疲れ。」

 三井が一言だけ言う。

「私達も帰ろうか、宗ちゃん。」

 が神を見上げた。

「あ、ちゃん! 俺が送る!」

 三井は、思わず足を止めた。

「でも、清田君…」

 に構わず、清田は手を引いて歩き出した。

「俺がちゃんと送りますから!」

 呆気に取られているメンバーの前で、は清田に連れられ帰って行った。

(な、なんなんだよ………)

 呆気に取られているのは三井だけではなかった。

「じゃあな。 俺も帰るが、お前等大丈夫か?」

 牧に振られて、神と藤真は我に帰った。

「ああ、じゃあな。」

「牧さん、お疲れ様でした。」

 神が頭を下げる。

「お前もな。 大丈夫か、三井?」

 苦笑う牧の声に、三井は踵を返した。

 むしゃくしゃする。

 牧と三井の背をそれぞれ見送って、神が口を利いた。

「…少し、お時間いいですか?」

 藤真が小さく首を傾げる。

「貴方とは、一度… ちゃんと話をしたいと思ってたんです。」

 射抜くように自分を見据える神に、藤真は首を竦めた。

「俺も思っていた。 行こう。」

 帰路にはつかず、二人は並んで歩き出した。

 言うまでもなかった。

 話とは、の事以外の何でもない。

 そんな事は、わかっている。



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