「ほっほっほ。 やっとるかね。」 妙な笑い声がして、安西監督が姿を現した。 お昼を済ませ、午後練が始まって間もなくの事だ。 旧友である当旅館経営者と久方ぶりに話し込み、気が付いたらこんな時間になってしまっていたのだ。 練習を一時中断して、メンバーは安西監督の前に集まった。 「安西先生。 この度は、今合宿参加の声をかけて頂き、ありがとうございました。」 藤真が頭を下げる。 「安西先生になら、安心して任せる事が出来ると、監督も言っていました。 ご指導の程、よろしくお願いします。」 牧と神が頭を下げたのに倣って、清田がペコリと頭を下げる。 「陵南の、この度キャプテンになりました。 よろしくお願いします。」 仙道と越野が頭を下げる。 「急ですみません。 でも、集まってくれて良かった。」 安西監督が、面々を見回した。 「今日は初日目ですので、練習も軽めにしておきましょう。 今から、2チームに分かれて試合をします。 各自、準備をして下さい。」 安西監督がくる〜っと、辺りを見回した。 丁度、ペットボトルを大量に抱えて、体育館に入って来たを見つける。 「君。」 手招きして、を呼ぶ。 「あ、安西先生。 こんにちわ。」 にこにこ笑いながら、メンバーの元へ近付く。 ((((((あ〜、可愛いっ!)))))) 全員、その笑顔に見惚れた。 の肩にぽんと手を置いて、安西監督が言った。 「君にも、試合に参加してもらいますよ。」 驚くは、安西監督を見上げた。 安西監督は何も言わず、ただ、にっこりと笑っていた。 は嬉しかった。 3年前に、同じコートを駆け回っていた藤真の練習を見ると、体が疼いて仕方がなかった。 押さえている気持ちが、膨らんで行く。 バスケが、したい。――― は戸惑ったように、訊ねた。 「私が、先輩達と…試合ですか?」 安西監督はにっこりと笑った。 「君も、少し楽しみたいでしょう。」 嬉しくなって、は満弁の笑顔を向けた。 安西監督は、視線をメンバーに戻した。 「Aチームは、牧君・神君・仙道君・流川君…それに、藤真君。 Bチームは、その他のメンバーで、君もこっちです。」 牧と神が顔を見合わせた。 仙道は楽しそうに、細く笑った。 彩子が何かを悟って、口を利く。 「安西先生、まさか…」 安西監督は大きく頷いた。 「Aチームは、神奈川ベスト 5 で行きます。 交代はなしです。」 その台詞に、桜木がピクッと反応する。 「オイ、親父! 何故、 1 プレイヤー、天才バスケットマン桜木が、Bチームなんだ〜!!」 桜木必殺、タプタプ攻撃が発動。 「ヤメロ!」 すかさず、三井の怒りの鉄拳が、桜木に炸裂した。 ずれた眼鏡を直して、安西監督が言う。 「…センターはいませんが、君達のジャンプ力なら問題ないでしょう。」 藤真が、ゆっくりと口を開いた。 「…ベスト 5 が、俺でいいんですか?」 藤真を見て細く笑う安西監督。 「当たり前じゃないですか!」 突然のの声に、藤真は驚いて声のした方を見た。 「先輩と…先輩は、私の中で、 1 ですよ。」 嬉しい台詞をさらりと言って、は儚く微笑んだ。 藤真は複雑そうに笑って、の髪を撫でた。 「おいで。 テープ巻いてやるよ。」 の手を引いて、藤真はベンチの方に下がった。 あまりに自然で、あまりにの笑顔が綺麗で。――― 他のメンバーは、口を挟む前に、を連れ去られてしまった。 「…。」 神がどこか痛い表情で息を吐いた。 「おのれ、翔陽の補欠クン…またしても、さんを………」 遠目で、微笑ましい様子の2人を見つめる桜木。 わなわなと体を震わせて、悔しさに耐えている。 (ベスト 5 か… 来年は俺が 1 だ。) 目標を新たに、流川の闘志に火が付いた。 (私の中で… 殺し文句だな。) 牧は心の中でそう思った。 「あ〜、藤真さん、ずるいな。」 仙道が少し悔しそうに呟いた。 (まぁ、俺のプレイを見れば、ちゃんも…v) ニヤニヤ笑う仙道に、越野が大きく溜息を吐いた。 PG・牧、PG・藤真、SG・神、SF・流川、F・仙道。 実力は間違いなく、最強。 プレッシャーを感じているBチームの面々の中、はけろっとしていた。 |