「スティール、速攻!」 カタカタカタ。――― 「ナイッシュ!」 カタカタカタ。――― 「リバウンド!」 コート内を慌しく動き回る選手達に目を向けたまま、彩子は首を傾げた。 「…それ何?」 「 vaio です。」 彩子はわずかに頭を抱えた。 「そうじゃなくて、何してるの?」 晴子も頷いて、を見つめた。 カタカタカタ。――― 「一年間の試合のデータを、ディスクにまとめているんですけど… 何か?」 自前のノートパソコンから目を放して、が言う。 彩子は、頭を抱えた。 「試合してるわよ。」 「はい、してますね。」 どこか他人事のように、が言った。 「ちゃん…出ないの?」 晴子が問う。 「出るよ、後半は。 テープも巻いて貰ったし。」 が答えた。 「だったら、試合を見てなさい。 流れを読まないと、このまま完敗よ?」 彩子がコートを指差した。 スパッ。――― 丁度、神の3Pが決まった所だった。 「大丈夫です。 始めの5分で、大体わかりましたから。」 コートに向けていた目線を再びパソコンに戻して、が言った。 「わかった…?」 晴子が首を傾げたが、は頷いただけだった。 カタカタカタ。――― 「ところで、今何点ですか?」 が言った。 彩子はスコアボードを見て、少し肩を落とした。 「 39 − 17 。」 20点以上の差がついている。 「ほら〜、諦めるな〜! まだ行けるわよ〜!」 彩子が声援を送った。 パタン。――― がパソコンを閉じた。 「大丈夫ですよ。 30点以上離されていなければ、追いつけます。」 少し体を動かせて、はリストバンドを着けた。 左肘と、右手首に一つずつ。 コートでは。 「ふんぬ〜!!」 ゴール下で桜木が、牧・流川に囲まれて、苦しいディフェンスをしていた。 「おのれ、じい! ふざけんな、流川〜!」 前半残り、16秒。 無理矢理シュートを打とうと、高く跳ぶ。 「花道、無理だ! 戻せ!」 「ぐっ!」 ダブルブロックをすり抜けて、何とか宮城にパスを回す。 バチッ。――― 藤真のスティール。 弾き出されたボールを追う。 ボールに追いついた三井が、3Pラインからゴールを見上げた。 仙道が、ブロックに跳ぶ。 「仙道、フェイクだ!」 牧が声を上げた。 不敵に笑って、三井は中へ切り込んだ。 「!」 フェイクを読んでいた藤真に、ボールを弾き飛ばされる。 「ナイスパァス!」 いい位置にいた清田が、ボールを受け取って跳んだ。 「あ〜! 一人でイイカッコすんな、野猿〜!!」 花道が叫んでいる。 流川がブロックに跳んだ。 清田は不快そうに眉を顰めた。 「くらえ、流川!」 時間がない。 パスせずに、突っ込む。 流川のブロックを交わすため、清田は空中で向きを変えた。 ガゴッ。――― ダンクだった。 「なめんな! お前にゃ、もう負けねえ!」 着地と同時に、清田が流川に嘆かを切った。 前半終了のブザー笛が鳴った。 スコアは 39 − 19 で、Bチームは大きく離されていた。 ベンチに戻って来たメンバー達に、は微笑んだ。 「後半は、勝ちに行きますよ。」 ガッツポーズで、強気に言う。 「…ったりめーだ。」 三井がドリンクを片手に言った。 「の割には、へばってるな、ミッチー。」 「…るせぇ、得点0のくせに。」 突っかかった桜木に、一つ厭味を言う。 「後半のメンバーはどうするの?」 彩子がに訊ねた。 「私、フルで出ますよ。 もちろん、PG です。」 がにっこりと笑った。 「 SG に三井先輩、 SF に清田君、 F に越野さん、 PF に桜木君で、行きましょう。」 なぬ!? 「さん! リョーチンは!?」 慌てふためいて、桜木が言った。 「ちゃん、ベンチは赤毛猿だろ。」 清田がイジワルそうに笑った。 「交代はなしです。」 にっこりと微笑むに、桜木は頷くしかなかった。 「オイ、?」 三井が驚いたように、首を傾げた。 ではなく、彩子が答えた。 「…安西先生の指示です。 牧・藤真の最強ガードに対して、がどんなプレイをするか見るようにと。」 三井は、目を見開いてを見つめた。 清田と桜木の言い争いを止めている。 安西監督がそこまで言うなんて、の実力は一体どれほどのものなのか。 「あの…」 が遠慮がちにメンバー達を見上げた。 「私は、私に出来る事しかやりませんから…リバウンドはお願いしますよ。」 桜木を見つめて、にっこりと微笑む。 「ま、任せて下さい! リバウンド王の名にかけて、ゴール下は俺が制す!」 新たにやる気を借り出され、有頂天の桜木。 「調子に乗るなよ、退場王。 かっかっか。」 「…うるせぇ。」 ハーフタイムを終えて、試合は後半戦に突入。 |