『…来て見ろよ、どあほう。』 スパッ。――― 流川は驚きのあまり、言葉を探せなかった。 ……………。 館内は奇妙なほどに静まり返っており、束の間、呼吸をする事さえも忘れる。 呆然と佇む流川に、が不敵に笑った。 「来てやったよ、どあほう。」 59 - 45 。 タイム終了直後から、わずか3分だった。 「あ、彩子さん…これって…?」 晴子が信じられないと言った口調で彩子に訊ねる。 「よく見ておきなさい。 あれが、本来ののスタイルなんだから。」 彩子はそれ以上は何も言わず、ただコートを見つめていた。 「………何だ、一体…?」 牧が呟いた。 「…10分。」 神が口を利いた。 「10分だと…? 何の事だ?」 牧の問いに、仙道も耳を傾けている。 「…が、フルで動ける時間さ。」 今度は藤真が答えた。 軽く舌打ちをする。 「…流川、下がれ。」 藤真が指示した。 その声で我に返り、何か言おうと口を開きかけたが、藤真が首を振って制した。 「…仙道と、ダブルチームで付け。 それでも止められなければ…」 藤真が牧を見据えた。 「…俺達が、ダブルで止める。」 Aチームのボールでゲームが再開された。 スッ。――― 「 ! 」 仙道は目を見開いた。 (…いつの間に?) 気が付いた時には、にボールを奪われ、抜き去られていたのだ。 「…何やってんだ、どあほう。」 流川がぼそっと毒づいて、を追いかける。 仙道も続いた。 「牧、インサイドを抑えろ! パスも来るぞ!」 藤真が言った。 シュート体制に入ったを見て、流川と仙道が跳ぶ。 「「た、高い!!」」 桜木と清田が同時に叫んだ。 は慌てる事無く、真っ直ぐにゴールを見つめた。 高く放たれたボールは、綺麗な弧を描いてリングに吸い込まれた。 「「「 ! 」」」 二度目のダブルクラッチ、流川は言葉を探せない。 仙道が手を叩いた。 「そうか、小さいんだ。」 「………」 流川が何か聞きたそうに、仙道を見据えた。 「オフェンスでもディフェンスでも、小さいから視界に入らない。 気付いた時にはもう抜かれているんだ。」 仙道 190 cm。 156 cm。 藤真が続けた。 「はかなりの技術を持っている。 でなきゃ、お前等が抜かれる事はないだろう。」 ちらっと牧を見ると、牧は無言で頷いた。 藤真は一息吐いた。 「俺と牧が2人掛かりで止める。 他の4人のマークは任せるぞ。」 残り時間は 6 分弱。 点差はわずか 12 点。 彩子は目を疑った。 神奈川の1PGが、2人掛かりでに付いている。 三井の3P、わずかに短い。 リングに当たってボールが落ちた。 流川と仙道がリバウンドのため跳んだ。 ボールを手にしたのは流川。 着地と同時に、はボールを奪った。 「「「 ! 」」」 驚くメンバーに構わず、三井へストレートパスを通す。 Bチームに3点が加算される。 「……………。」 拳を握る流川の肩を、神が叩いた。 「流川のせいじゃない、今のは忘れよう。 が凄すぎるんだ。」 奇妙な空気を纏ったまま、残り時間は5分を切った。 両チームの得点差は、たった 9点だった。 |