「…機嫌が悪いみたいだな。」 脱衣所で藤真に声を掛けられた。 既に桜木等の姿はなく、そこには藤真しかいなかった。 「…オカゲサマでな。」 誰のせいだと毒付きたくなるのを押さえて、三井は無愛想に言った。 露骨に嫌な顔をされて、藤真は首を竦めた。 「子供だな。 妬いてるのか?」 ズバリ図星を言い当てられ、三井は勢いよく怒鳴った。 「誰がだよ!」 そんな様子を見て、藤真は口元だけで笑った。 「…あの日は悪かった。 自分の気持ちを押さえられなかったんだ。」 三井は驚いて藤真を見た。 あの日、それを謝ったとなると。 「…俺がいた事、知ってたのか?」 藤真は首を竦めた。 「お前だけじゃないさ。 神もいた…」 頭に血が上った。 三井は藤真の胸倉を掴み上げていた。 「…見せ付けてたって、事かよ?」 静かな声音は、確かに怒りを含んでいた。 「忠告だ。」 藤真は臆する事もなく、三井を見据えていた。 「彼女に深入りするな。 傷付けたくないなら、放っておいてくれ。」 「ふざけんな! お前に言われる筋合いなんか…!」 三井の怒鳴り声を制したのは、静かな声だった。 「…同感です。」 突然の第三者の声、三井は驚いて振り向いた。 「手を離してください、三井さん。」 「………神。」 穏やかに微笑んだ神。 その笑顔に毒気を抜かれて、三井の手から力が抜けた。 「…に関わるなって、そう言うのか?」 疑問と戸惑いの雑じった声。 神は小さく頷いた。 「…貴方は、の事を何も知らない。 半端に優しくしたら、は傷付く…」 神は真っ直ぐに三井を見つめていた。 「これ以上、が泣くのを見たくないんです。 に関わらないで下さい。」 三井は言葉を探せない。 (が傷付く? 俺は何も知らないだと…?) ただ悔しかった。 自分が知らない事を、幼なじみと先輩は知っている。 自分が優しくすると言う事で、が傷付くと言うのか。 三井は拳をキツク握った。 休憩室に座って、は桜木等と何やら話をしていた。 「あ、宗ちゃん!」 神の姿を見つけ、嬉しそうに手を振る。 神は優しく微笑んで、の頭を撫でた。 と、肩にかけられたバスタオルで、の髪を拭う。 「きゃ〜、何するの〜っ!」 しばらくして解放されたが、の髪は乱暴に拭われてボサボサになっていた。 「もう、折角憧れのストレートになってたのに〜。」 ぷぅと頬を膨らませる。 「濡れてたから、風邪引くと思って。」 手櫛で梳かしてやりながら、神は細く笑った。 「ひゃっ !?」 頬に突然冷たい物が触れて、は小さく悲鳴を上げた。 「せ、先輩?」 振り返ってみると、藤真が微笑んでいた。 「いる?」 イチゴミルクを片手に、に訊ねる。 「はい、いただきます。」 嬉しそうに笑って、イチゴミルクを受け取る。 「お、おのれ、補欠クンにジンジンめ…」 悔しそうに肩を振るわせる桜木の隣で、清田は神と藤真を見比べていた。 場の和んだ休憩所。 三井は何も言わず通り過ぎた。 藤真と神に囲まれて、嬉しそうに笑っているを見たくない。 自分に向けられる笑顔と、明らかに違うその笑顔を。 |