ストラップ



「この携帯誰の? ロビーに置き忘れてたみたいだけど。」

 携帯電話を片手に、仙道が休憩室に顔を出した。

「…む?」

 集まってトランプをしていた面々が、一斉に視線を向ける。

 桜木と流川が、揃って口を利いた。

「「(さん)のだ。」」

 桜木が流川を睨む。

「マネすんじゃねえよ、キツネ…」

「…黙れ、どあほう。」

 一触即発の空気に、仙道が苦笑う。

「じゃ、ちゃんに届けに行こうかな〜♪」

 鼻歌を歌う仙道に、宮城が首を傾げた。

「それ、ストラップか?」

 清田が顔を上げて、ストラップを見つめる。

「…K・F、S・J、E・H………何すかね、これ?」

 と、首を傾げた。

 瞬間、藤真が眉を顰めた。

「イニシャルじゃないのか…?」

 牧が言った。

 のストラップ。

 自分で作ったのだろうか、3人のイニシャルらしき物が並んでいる。

「イニシャル??」

 桜木が首を傾げた。

(藤真健司に、神宗一郎か…)

 藤真を横目でちらっと見て、三井が小さく舌打ちをした。

「最後の、E・H…って、誰っすか?」

 清田が辺りに視線を投げた。

「じゃ、メモリ見ちゃおうか♪」

「止めろ、仙道…」

 にこやかに笑う仙道に、越野が溜息を吐いた。

.。.:*・♪.。.:*・♪.。.:*・♪

「うわっ!?」

 携帯が突然鳴り出した。

「ほら、あったよ。」

 神に連れられるように、が顔を覗かせた。

「私の電話、仙道さんが拾ってくれたんですか?」

 神の手には携帯電話。

 着信音を頼りに探していたらしい。

「ん。 今から届けに行こうと思ってたんだ。」

 に電話を返してやりながら、仙道が微笑んだ。

「アリガトウございます。」

 頭を下げて休憩室を去ろうとするの、腕を掴む。

「?」

 首を傾げるに、にっこりと笑った。

「それイニシャルだよね? E・Hって、誰?」

 全員の視線が痛いほどに突き刺さる。

 が何か反応を示すより先に、神が仙道の手を払った。

「悪いけど、もう行くよ。 拾ってくれてありがとう。」

 有無を言わさぬ笑顔で、仙道を見つめる。

「…ど〜いたしまして。」

 仙道は溜息を吐いたが、それ以上深追いをしなかった。

「…マズイ話みたいだな、藤真。」

 牧にそう言われて、藤真は大きく息を吐いた。

「ああ… 前々から外せって言ってあるんだけどな………」

 ふと顔を上げると、その場の全員が自分を見つめていた。

 藤真は苦笑って、一言だけ釘を刺した。

「…この話に触れないでくれ。 頼む。」

 藤真の心情を悟ってか、それ以上その話は出なかった。



 の手を引きながら足を進めて、神は溜息を吐いた。

「…ストラップ、外した方がいいよ。」

「………ん。」

 が小さく頷いた。

だって、深追いされたくないだろう?」

「…そ、だね。」

 本当にわかっているのか、神は溜息を吐いた。

「…ネックチェーンも、せめて合宿の間だけでも、外した方がいい。」

 は何も言わなかった。



back