微熱



 合宿二日目。

「ふんぬ〜っ!!」

 ゴール下で激しい争いが繰り広げられている。

 牧と流川にキツイマークをされて、桜木花道奮闘中。

「どうした、当たって行け!」

 藤真が指示している。

「赤毛猿! 無理すんな、ボールをよこしやがれ!」

「お前には死んでも渡さん!!」

 バチッ。

「あ〜〜〜!!!」

 叫んでも時すでに遅し。

 流川は既に走り出しており、綺麗にダンクを決めた。

「ナイッシュー、流川!」

 大きく声をかける彩子の横で、春子の目がハートになっている。

「おのれ、キツネ…!」

 悔しそうに歯噛みをして、桜木が流川を睨んだ。

「何やってんだよ、テメエ! だからよこせって言っただろ!」

「だまれ! お前がうるさくしなかったら、こんな事にはならなかったはずなんだ!!」

 責任の擦り付け合い。

 互いに得点者が流川である事が気に食わないようだ。

「アンタ達、なんで見方同士なのに仲良く出来ないの…」

 彩子はわずかに頭痛を感じた。

「桜木、清田!」

 鋭い声色に二人は恐る恐る振り返った。

 静かに、しかし明らかに怒っている藤真がそこにいた。

「練習中だ、集中しろ!」

「なぬっ!」

 桜木が不満そうに清田を指差す。

「補欠クン、この野猿が天才の邪魔を…」

「自分は悪くない、そう言うのか?」

 藤真に睨まれ、桜木は言葉を飲み込んだ。

 整った顔立ちは、必要以上の威圧感を感じさせる。

「…くそぅ。」

 悔しそうに一言呟いて、練習に戻る。

「喰らえ、ゴリ直伝ハエタタキ!!」

 ボールに当たるように、力一杯叩き落した。

 ボールは勢い良く、一直線に飛んで行く。

「あっ!!」

 清田が声を上げた。

 飛んで行くボールの先には、がいる。

っ!!」

 藤真の声に、が振り向いた。

「え?」

 首を傾げる間もなく、視界にボールが写る。

ばちぃっ。―――――

「きゃあっ!」

 咄嗟に悲鳴を上げたが、衝撃がなかった。

 閉じた目をゆっくり開くと、越野がいた。

「気を付けろ、桜木!! 怪我したらどうするんだよ!!」

 越野は怒鳴って、を見つめる。

「大丈夫だな?」

 力強く言われて、は頷いた。

 頷いた筈だった。

「えっ、オイ!!」

 の体が傾いたかと思うと、突然倒れてしまったのだ。

「「「!!」」」

 自分を呼ぶ複数の声が、凄く、遠く感じた。



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