イライラ



ダム。―――

「!」

 目を見張るような素早い動き。

シュパッ。

 キレイなシュートが決まった。

「ほぅ…ミッチーのヤツ、気合入ってるな。」

 桜木が感心したように呟いた。

「気合と言うよりはむしろ………」

 イライラしているのを、バスケにあたっていると言った感じである。

 彩子が複雑な表情で苦笑った。

「ところで…」

 宮城が顎でしゃくった方を見てみると、が雑巾を片手にボールを磨いていた。

 すごくボーっとしているらしく、先ほどから早10分、同じボールを磨きっぱなしである。

「…ちゃん、どうかしたの?」

 心配そうに宮城が訊ねたが、彩子も何も聞いていない。

 は時折り、その小さな可愛らしい唇から溜息を漏らしている。

 視線は定まらず、どこか遠くを見ていると言った具合で、顔も少し赤い。

「…これはアレね。」

 彩子がにんまりと笑った。

「三井さん…手が早いな………」

 宮城も頷き、何かを納得しているようだ。

「な、何の話だ? わかるように説明してくれ、リョーチン!」

 一人訳のわからないと言った様子で、桜木が2人の顔を見比べた。

「ね、流川! 無表情なふりなんてしてないで、話に参加しなさいよ! アンタはどう思う?」

 彩子に振られて、流川はわずかに首を傾げた。

 三井とを見比べて、静かに言う。

「…先輩も男だったって事じゃないんすか?」

 興味なさそうに言って、練習に戻って行った。

「待て、流川! どう言う意味だ!」

 気になって仕方のない桜木を他所に、彩子と宮城の間で、協定が結ばれた。




、ちょっと。」

 彩子に呼ばれて、は体育館から出て行った。

 ウィンクする彩子に手を振って、宮城は三井の元へ。

「イラついてますね。」

 何か言いたそうな笑顔を浮かべて、宮城が三井をニヤニヤと見つめる。

「昨日、何かあったんですか?」

 肘で三井を小突いてみた。

 顔を赤くして反言して来るかと思いきや、三井は何も言わず黙って俯いていた。

 いつもの偉ぶった態度からは想像も出来ない。

 宮城は首を傾げた。

「三井さん、何かあったんですか?」

(…何でお前に言わなきゃなんねえんだよ。)

 そう思ったが、吐いてしまった方が楽な気がする。

 三井は溜息を吐いて、ゆっくりと口を利いた。


「えぇっ!? 会ってない??」

 宮城が三井を小突いているのと、ほぼ同時刻。

 体育館の裏で、彩子がすっとんきょうな声を上げた。

「え? はい…会ってませんけど…?」

 がきょとんと首を傾げる。

「え、昨日病院にいったんでしょ? 心配だからって、三井先輩が家まで様子を見に行ったはずなんだけど…?」

 言いながら、彩子は混乱していた。

 てっきりそのまま三井がに襲い掛かり、そのせいで気まずいのではないか…。

 勝手にそう解釈していたからだ。

「…私、会ってませんよ?」

 が困ったように彩子を見上げた。

 彩子は溜息を吐いた。

 が嘘を吐くような子ではないと知っている。

 しかし、それなら。

「…、今日のアンタ変よ? 悪い結果でも出たの?」

 彩子の言葉に、は慌てて首を振る。

「いいえ、異常ありませんでした。」

 はふと、考えて。

「…そっか。三井先輩、心配してくれたんだ………」

 色違いの瞳で、彩子を見つめて笑った。

「私、お礼言って来ます!」

 パタパタと体育館に戻って行く

(可愛いわね〜v もぉ、抱き締めちゃいたいっv)

 彩子はそんな事を考えていた。




「昨日…」

 重い口をやっと開いた時、が戻って来た。

 三井は口を閉じて、言葉を飲み込んだ。

「三井先輩!」

 は背を向けている三井の前で、止まった。

 いつもの笑顔を向けるが、三井は視線を合わそうとしない。

「あの、昨日はアリガトウございました!」

 ぺこりと頭を下げ、は続ける。

「心配して見に来てくれたなんて、会えなくてすみませんでした。」

 と、もう一度頭を下げるが、三井は何も言わない。

「…先輩? どうかしたんですか?」

 は不思議がって、首を傾げた。

 宮城は黙って、2人のやり取りに聞き入っている。

 は首を傾げたまま、すっと手を伸ばした。

 小さな手が、三井の額に触れる。

「…っ…!」

 驚く三井を他所に、はにっこりと微笑んだ。

「良かった。 熱はないみたいですね。」

 遠くで桜木がの笑顔に見惚れている。

 少しどきっとした三井だったが、すぐに我に帰ると、自分の額に触れているの手を振り払った。

 ぱしっと乾いた音がした。

「あ、ゴメンなさい…」

 叩かれた手を擦りながら、が上目使いに三井を見上げた。

 三井は苦々しく、舌打ちをした。

 を放って、練習に戻る。

 キレイにシュートが決まった。

「オイコラ、ミッチー! さんの手を〜!」

 怒りに燃える桜木に、が駆け寄った。

「桜木君、私が悪かったの。 だから…」

 桜木を嗜めているを見て、三井はもう一度舌打ちをした。

「目障りなんだよ…」

「…え………?」

 は耳を疑って振り返った。

 三井はに背を向けたまま、ゴールに向かい合っている。

「…俺の心配なんかしてんじゃねえよ。」

 冷たく言い放たれた言葉。

「…心配するのが、いけないんですか…?」

 泣き出しそうな、の声。

 三井は、カッとなって…

 次の瞬間、怒鳴りつけていた。

「俺じゃなくて、藤真の心配だけしてやればいいだろ!!」




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