「じゃ、ちょっとだけ待っててね。 ケーキ食べてていいよ。」

「もう、頂いてます。」

 悪戯っ子のように、がはにかんだ。

 諸星は、の髪をくしゃっと撫でて去って行った。

 ケーキを食べながら、部屋を見回してみる。

 部屋の雰囲気は、少し大人びたみたいだ。

『俺のサインや! ありがたく貰え!』

 調子に乗って、樋口が書いた物だ。

 大好きなバスケ選手のポスター一面に大きく落書きをされて、諸星が半泣きした事を思い出した。

 そのポスターは、そのまま貼られている。

 いつだったであろう。

『コレ、やるわ。』

 樋口に、小さな鍵を貰った。

『何の鍵?』

『内緒や。 そのうちわかるかも知らんし、わからんままかも知れんなぁ。』

 いたずらに笑ってはぐらかされて、結局何の鍵かわからずじまい。

 一体何の鍵なのだろう。

「おまたせ。 はい。」

 が考え込んでいると、諸星が戻って来た。

 声の方に振り返って、は目を丸くした。

 小さな鍵の付いた、箱。

「コレ…?」

 首を傾げるに、諸星が細く笑った。

「これね、炎に預かってろって頼まれた物なんだ。」

 三年前。

 夏休みを利用して、二人で大阪と愛知に遊びに行った。

『どうしても一緒に来て欲しいねん! 俺、ちゃんの事好きやから、ちゃんに俺の好きな人達と会って欲しい!』

 樋口の急な誘いだった。

 南や岸本、それに諸星と会ったのも、それがきっかけである。

「いつ取りに来るんだって聞いたらさ、ちゃんが取りに来るって言ってたんだよ。 鍵は、貰ったよね?」

 が頷く。

「本当はもう少しゆっくりして行って欲しいけど、早く帰って、開けてみな。」

 ぽんと頭を撫でられて、は小さく首を振った。

「大ちゃん… 」

「ん?」

「ありがとう。」

 にっこり笑ったの頭を、もう一度撫でる。

「もうちょっとしたら、駅まで送るよ。」

 おそらく自分が諸星を訪ねるであろう事を、樋口は予想していたのだろう。

「やっぱり、敵わないな〜、炎くんには。」

 小さな溜息が零れた。



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