買出し



10:25。―――

 約束の時間5分前に待ち合わせの場所に着いて、三井は相手を探した。

 今日は日曜で、部活は午後からである。

 彩子に買い物の荷物持ちになって欲しいと強引に頼まれて、断りきる事が出来なかった。

 すっぽかそうとも思ったが、後が怖い。

「…先輩を待たすんじゃねえよ。」

 一通り見回すが、彩子らしき人物は見当たらない。

「お、おい! 行こうぜ!」

「この女、何言ってんだよ…?」

 三井はふと、声のした方に視線を投げた。

 逃げるように急いで走って行く2人組の男、そして。

「…?」

 知った声に、は目を輝かせて振り返った。

「おはようございます、三井先輩!」

 どうしてココにと訊ねる三井より早く、はぽんと手を叩いた。

「先輩が付き合ってくれるんですか?」

 三井は体の力が抜けていくのを感じた。

(彩子、仕組んだな………)

 ちらっと、目の前の少女を見る。

 いつもの制服やジャージ等の類ではなく、秋らしい私服姿ではにこにこと笑っている。

「彩子先輩が私服で来いって言ったから… 私の趣味っておかしいですか?」

 自分を見つめたまま動かない三井に、が少し焦ったように自分の格好を見直した。

 三井は片手で口元を抑えた。

 を直視出来ない。

(………可愛すぎる。)

 は上目使いで三井を見上げた。

「先輩、行きましょうよ。 結構頼まれてるから、部活に間に合いませんよ?」

 は三井の手を引いて歩き出した。

 繋がれた手の温もりに、三井はわずかに顔を赤らめた。



「先輩、片方持ちますよ…」

 が困ったように三井を見上げる。

「大丈夫だって。 それより、コレで終わりか?」

 買出しメモに目を通して、がこくんと頷いた。

 マネ用のスポーツバッグに、薬品関係一覧。

 大きな袋を2つ三井は下げていた。

「いっぺんに買う必要あるのかよ。」

 などと文句を言うと、丁度安いんだとに言い返される。

「まだ時間あんだろ? 飯でも食うか?」

 三井が先に見えるモスバーガーを顎で示した。

「あ、いいですね。 でも…」

 はモスの先に見える、ゲーセンを指差した。

「1ゲーム勝負しません? 負けた方が奢るってのはどうでしょう?」

 にこにこ笑っているに、嫌だなんて言い出すはずもなく三井はにっと笑った。

「いいぜ、乗った。」

 2人はモスを通り過ぎて、ゲーセンに入った。

 空いている台を見つけて、早速コインを入れる。

 勝負は意外に早くついた。

「あ〜! 先輩、ズルイ!」

 画面に浮かんだ lose の文字を見て、はキッと三井を睨んだ。

「お前が下手なんだよ。 約束だからな、奢れよ?」

 ぷぅと頬を膨らませるに、知らずのうちに顔が緩んでいる。

「…グレてる時に通ってたんですね、だから上手いんだ。」

「んだと〜!」

 首を締めるとは三井の腕の中で暴れ出した。

「きゃ〜、セクハラ〜! (この娘は何を言うんだ…笑) 」

 ふざけてそんな事を言い出すにたまらず吹き出すが、通行人の視線が痛い。

「ふざけんな、てめえっ!」

 慌てて否定した。

「先輩、アレ何ですか?」

 と、が指差した方に目を向ける。

「プリクラ知らねえのか?」

 驚いた声音で、三井が聞き返した。

「あ、アレがプリクラですか…」

 が撮りたいと訴えるような目で、じっと三井を見上げる。

「オイオイ、勘弁しろよ。」

 三井は苦笑った。

 ただ撮るだけならいいのだが、からかわれる種になる。

「…せ〜んぱい、一枚だけお願いします。 撮った事ないんですよ〜。」

 全身でお願いと訴えるに、三井は小さく息を吐いた。

「…わかったよ。」

 は嬉しそうに飛び跳ねて、はしゃいで駆け出した。

「先輩、早くっ!」

「走るなバカ、あぶな…」

 三井の注意が完全に終わるより先に、は人とぶつかって尻餅をついた。

「ご、ゴメンなさい…!」

 反射的に謝って、目の前の学生服の男を見上げる。

「あ、俺こそ悪い。 大丈夫か?」

 に手を差し伸べる男の顔を見て、三井は思わず叫んだ。

「海南の清田…!」

「なっ、湘北の三井…!?」

 を助け起こしながら、清田は首を傾げた。

「ノブ〜、どうしたの? 大きな声なんか出して…」

 続くように、両替機の隣から神が顔を覗かせて目を丸くした。

「………。」

 清田の前に立っているを見て、神は呟いた。

 その声に、ははじけたように神を見上げた。

「宗ちゃんっ!」

 驚いたのは三井と清田だ。

 神に飛び付くを、呆気にとられて見つめる。

「こら、人前でそう呼ぶなって。」

 神が照れたように首を竦めた。

「神さん、彼女ですか?」

 清田が目を丸くしたまま言った。

「彼女じゃないよ。」

 神は自分に抱きついているの頭を撫でて、清田と言葉を失ってる三井を見比べた。

「ほら、。 三井さんが困ってるよ?」

 苦笑いを浮かべて、を見つめる。

 は思い出したように、三井を見つめた。

 しまったと、小さく舌を出して頭を掻く。

「また、先輩か?」

 わずかに引き攣った様子で、三井が訊ねた。

 と神は顔を見合わせて、互いに細く笑った。

「「幼なじみです。」」



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